本研究課題では、発達障害の示す認知行動特性の傾向を実行機能のプロフィールとして描き出し、性差を発達障害の質的要因の一つとして捉え、行動指標(行動データ)と生理指標(事象関連電位データ)の組合せによって検討することを目指してきた。しかし、研究期間中に、新型コロナウイルス感染症と天井からの水漏れによるシールドルームの全損被害に見舞われたため、脳波計測を伴う心理生理実験データの十分な取得が困難であった。そのため、本研究課題の基礎となる前研究課題から継続した取得済みの時間判別課題と情動処理課題のデータに対して、自閉性傾向と衝動性傾向を発達障害に関連する定型発達内の認知行動特性の個人差要因として組み込んだ解析を展開した。最終年度である本年度は、実行機能のプランニングの基礎となる心的イメージを捉える新しい行動実験を提案し、今後の脳波計測を伴う心理生理実験へつなげる試行的研究を実施した。視覚記憶とイメージ生成における認知的干渉を性差から検討したが、現時点では有意な性差は認められていない。 時間判別課題の解析において、事前に学習していない時間間隔と学習した時間間隔の判別において、学習した時間間隔を正しく判別する場合には、学習していない時間間隔を正しく判別する場合よりも、判別時に惹起するP3と正答フィードバック時に惹起するP3に大きな振幅が認めらた。先行研究の精査から、このP3をP350の視点から捉え直し、学習した時間間隔を判断する際の脳内メカニズムを検討した。このP350は男性よりも女性が大きな振幅を示し、この振幅の変動は衝動性傾向と関連する可能性が示唆された。また同課題において、高次認知機能に関連するとされるガンマ帯域反応(30-80Hz)を対象とした周波数解析を進めている最中である。情動処理課題の解析では、明確な性差は確認できず、自閉性傾向および衝動性傾向との関連も示唆されなかった。
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