研究課題/領域番号 |
19K02958
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
瀬戸 淳子 帝京平成大学, 健康メディカル学部, 教授 (70438985)
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研究分担者 |
秦野 悦子 白百合女子大学, 人間総合学部, 特別研究員 (50114921)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 談話能力 / 幼児期 / 発達評価 / 事象系列 / 物語再生 / 物語再生 |
研究実績の概要 |
幼児期の談話能力を評価するために作成した3課題について、これまでの調査データをもとに、発達の様相を明らかにし、発達評価に有用な指標を抽出した。 1)事象系列課題:日常経験している事象系列知識に関する課題で、表出課題と補助絵図版並べによって事象系列の理解度をみる理解課題から成る。年齢が低いと、特定事象のみの語りや個人的経験・周辺事象の語りが多いが、年齢の上昇とともにこれらの語りは相対的に減少し、当該場面の中核事象を中心に語る方向に収束することが明らかになった。発達評価として、表出面は中核事象の語りを、理解面は正答数を指標とした。 2)物語再生課題: 絵を見せながら物語を聞かせたのち、視覚的手がかりがない状態で物語の内容を再生させる課題である。発達の様相は、特定の行為のみに焦点化する語りから、年齢の上昇とともに場面や出来事の関係などがバランスよく語られ、物語構造に沿った語りへ収束することが明らかになった。語りの分析のために、物語の筋立てに必要な、接続助詞でつながる2事象から成る10のUnitを抽出した。そしてUnitごとの適切な述語文の出現数や一事象ごとの主要な項の出現数を発達評価の指標とした。 3)状況絵課題:描かれた状況の意味を統合化し言語化する課題である。図版は複数の登場人物が解決すべき困難に直面した葛藤が描かれている。年齢が低いと行為者が欠落しがちで、具体的な行為の表現より一般表現が用いられる傾向があるが、年齢の上昇とともに、特定事象のみでなく、状況絵の背景情報、因果関係、事象系列などがバランスよく語られ、絵を統合し表現する方向へ収束することが明らかになった。発達評価として、描かれた状況をいくつかの事象に分け、その語りのコンテンツ得点を指標とした。 以上3課題で抽出された指標はいずれも年齢による識別性が高く、幼児期の談話能力の発達評価に有用と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染の拡大の影響を受け調査が困難な状況が続き追加対象者の確保が難しく、研究の予定を立てにくい状況が続いていた。しかしこれまでの基礎研究で不足していた談話能力が幼児期で一番高い6歳児を中心に一定のデータ数は確保できていること、また、新旧データを比較して検討したところ結果に大きな差は認められなかったことから、最低限必要な対象者数は確保されていると判断し、3課題については談話能力の観点から評価に有用な発達指標をほぼ確定し、幼児期の課題ごとの談話能力の発達の様相についての分析、談話能力発達評価法作成に向けた分析を進めている。 これまでの研究結果について、2022年度は日本教育心理学会第64回大会、日本心理学会第86回大会、日本発達心理学会第34回大会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1)談話能力の発達プロセス解明と談話能力の発達評価法の確立:談話能力評価のために作成した課題に関して、評価に有用な発達評価指標を確定し、さらに課題全体の結果を精査し、発達の質的変化を明確に捉えるための得点の重みづけや追加の発達評価指標の抽出を検討する。これらの分析をもとに、研究成果として幼児期の談話能力の発達評価スケールを作成する。また、談話能力の発達機序やプロセスを検討するために、談話能力の評価のために作成した課題間の相互関係、さらに、評価された談話能力と語彙などの言語能力(PVT-R絵画語い発達検査、K-ABCⅡの語彙尺度課題、文復唱課題の結果)との関係性について分析を行う。 2)聞き手から引き出される談話能力についての分析:談話能力の発達支援に活かすために、調査データをもとに聞き手から引き出される談話能力や、補助図版によって引き出される談話能力についての分析を進める。 3)言語支援のモデルの提案:特別支援児に対して、作成した談話能力発達評価スケール(補助評価を含む)を実施し、談話能力や言語能力のプロフィールをどのように支援に結びつけるかについて事例的に支援モデルを検討する。 また、追加調査については、コロナ感染が収束してきた次年度に可能な限り実施したいと考えているが、調査実施について施設側の許可が得られるか、現状では不明であり、今後の追加調査が難しい場合には、これまで得られているデータをもとに上記の研究をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で調査の見通しが立たず研究が遅れたため、調査関連の費用、研究成果物の制作や印刷、研究調査や発表のための旅費等の未使用額が生じた。 次年度の研究費の主な使用計画は以下のとおりである。 談話能力の発達評価法の作成費に約70万使用予定。旅費約30万:研究成果発表のための学会出席旅費、研究調査のための旅費として使用予定。人件費・謝金約5万:調査資料の入力・整理の補助を行う研究補助者への謝金として使用予定。印刷費と通信費(切手類)等に使用予定。
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