研究課題/領域番号 |
19K03011
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
粂野 文洋 日本工業大学, 先進工学部, 教授 (50442512)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Project Based Learning / ソフトウェアエンジニアリング / リスク分析・予測 / マルチエージェントシミュレーション / 深層学習 |
研究実績の概要 |
本研究は社会実装型PBL(担当教員や学生以外のステークホルダが抱えている課題を解決し,実際に利用してもらうことを前提としたシステムを開発する形態のPBL)を対象としたリスク分析手法を提案することを目的としている.過去のPBL演習によって蓄積された様々なデータから,分析対象となるチームのプロジェクトで発生しうるリスクの識別および予測を行う手法を確立することを目指すものである. 2019年(本研究の初年度)には,深層学習を中心とした機械学習の適用可能性を分析すべく,機械学習応用の文献調査を行った.その結果はサーベイ論文として国際ジャーナル(IOS Press Intelligent Decision Technologies)に掲載されている. 2020年は当初の計画にあるとおり,ソフトウェア開発現場におけるリスク分析手法やラーニングアナリティクスにおけるリスク分析手法に関する文献調査を踏まえ,マルチエージェントシミュレーションに基づくリスク分析手法の設計に着手した.こうした研究の構想を論文にまとめ,電子情報通信学会で発表した. 2021年には,社会実装PBLで考慮すべきリスクの中でも,テーマ内容に依存しない共通のリスクとして,スケジュール遅延や作業負荷の偏りのリスクに焦点をあて,マルチエージェントモデルによって学生のプロジェクトをモデル化し,リスクを予測する手法を考案し,実験を行った.これらの結果を論文にまとめ電子情報通信学会で発表した.さらに詳しく分析を進めた結果をソフトウェア工学に関する国際会議に投稿中である.また,社会実装PBLの今後の展望に関わる提言を日本工学教育協会年次大会で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソフトウェア開発現場におけるリスク分析を系統的に実施する手法として,ソフトウェア開発プロジェクトの様々な状態(あるいはソフトウェア開発プロセス)を計算機上にモデル化し,シミュレーションを行う研究が多く行われていることが明らかとなった.しかしながら,これらの研究は企業におけるソフトウェア開発(プロフェッショナルな構成員による開発プロジェクト)を対象としており, 知識やスキル,学習能力,意欲などで発展途上の学生を構成員とするプロジェクトには適用が難しいことがわかり,本研究の新規性が改めて浮き彫りとなる結果となった. 社会実装PBLで考慮すべきリスクは様々であり,それはテーマにも依存しているが,まずはテーマ内容に依存しない共通のリスクとして,スケジュール遅延や作業負荷の偏りのリスクを対象としたリスク分析手法の設計を行った.そのためにマルチエージェントモデルによって学生のプロジェクトをモデル化し,リスクを予測する手法を考案し,実験を行った.チームの構成員をエージェントとしてモデリングし,プロジェクトを実施するための行動を定義することで自然にプロジェクト活動を表現でき,さらにスケジュールや作業負荷についても自然に表現することができる.モデリングにあたってはより現実的なプロジェクトを表現するために,プロジェクト内の作業間の依存関係(PERT図で表現される)もモデリングの対象とし,マルチエージェントシミュレーションモデルを記述した. モデリングおよびシミュレーションにはNetLogoを利用した.様々な条件でシミュレーション実験を行った結果,作業分担の方法の違いが,スケジュール遅延や作業負荷の偏りのリスクに関係している可能性があることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
現在のシミュレーションモデルはスケジュール遅延や作業負荷の偏りのリスクを対象としたものである.簡単のために,エージェントの能力やタスクの依存関係のみを導入しており,ソフトウェア開発プロセスに固有の様相を取り入れていない.したがって,ソフトウェア開発以外のPBLにも本手法を適用できる一方,より忠実にモデリングをおこなうためには,固有の様相を取り入れることが必要となる.また,シミュレーション結果で得られた作業時間や作業負荷の傾向が,実際のプロジェクトにおいてどの程度当てはまるかについては,さらに多くのプロジェクトデータによる分析や個別の事例分析等,様々な側面からの分析が必要である. シミュレーションに基づく手法以外にも,構成員(学習者)の知識やスキルに関するデータや過去に実施された演習のデータなど,データをより積極的に活用・分析し,リスクを識別,予測する手法についても検討が必要である. また,これまでの研究によって,新たな課題が明らかになりつつある.2019年に行った機械学習応用の文献調査による分析から,機械学習のような日々進化しつつある技術の適用を社会実装型PBLのテーマにすることには技術的リスクと運用面でのリスクが存在することがわかっている.一方で社会的な期待も大きく,第三者のステークホルダからの要望で,テーマとして検討しなければならない事態も考えられる.機械学習に限らず,IoTやVRのように普及進展が急速で社会的に注目されている技術でも同様のことが想定される.こうした状況に対応するには,PoC(Proof of Concept:実証実験)としてのPBLを進めるのが現実的である.現在,PoCとしてのPBLを試行的に実践しているが,その進め方やリスク管理の手法については今後の研究課題になると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は新型コロナウィルス感染拡大のため,学会はオンライン参加となり,旅費が発生しなかった.国際会議での発表についても検討していたが,2022年3月までの会議の参加は見合わせた.現在,これまでの研究成果をまとめた論文をヨーロッパで開催予定の国際会議に投稿中である.Acceptされた場合は本会議へ参加出張する予定である.ただし,状況によってはオンライン参加となる.
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