研究課題/領域番号 |
19K03017
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
杉尾 武志 同志社大学, 文化情報学部, 教授 (60335205)
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研究分担者 |
小川 健二 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (50586021)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 図的表現 / 認知 |
研究実績の概要 |
本年度は、図的表現において大域的な空間関係に注意を向けることを促進する要因の一つとして、図的表現のデザインが喚起させる感情特性をとりあげ、こうした感情特性が図的表現の読み取りに与える影響について検討をおこなった。図的表現の一つであるグラフを対象に、そのデザインを構成する視覚特徴(全体的な複雑さ、および角の有無)が、グラフに対する読み取り時の方略の違いとどのように関係しているかについて調査を実施した。先行研究をふまえて、グラフのデザインによって快感情が喚起された条件では、より大域的な視覚情報処理がおこなわれ、結果としてグラフが表すデータの大域的特性について読み取りがなされるといった仮説が立てられた。本調査1では、棒グラフの横幅を操作することで全体的な複雑さについて検討がなされたが、同時に他の視覚特徴について変化が生じていた。そのため、本調査2においてはグラフを構成する角についてまるめることで角を無くしたデザインと、そのまま残したデザインとの間の比較もおこなうことで、観察者が快感情を喚起させると考えられる複雑さと角の有無が、それぞれ読み取り時の空間的範囲に同じような形で関係するのかが検討された。調査の結果、Y軸がとる値について絶対的な読み取りが必要となる場合は、より快感情を喚起させる曲線的なデザインについてグローバルな読み取り結果が報告された。本調査の結果は、効果的に視覚的思考をおこなうためには、図的表現に関してより快感情を喚起させるようなデザインが必要であることを示唆している。今後、こうしたデザイン特性の違いおよびそうした違いに対する個人の感度が視覚的思考に及ぼす影響を検討することで、空間的能力に対して情動や認知の制御といった実行機能が、どのように補完的な役割を果たすことができるかを検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は図的表現における大域的な空間関係への注意において、図的表現が快感情を喚起させるかどうかといった感情価が重要となることを明らかにした。しかし、こうした快感情の喚起については、これまでに検討をおこなった図的表現の複雑さや曲線度といった視覚的要因の影響を単独で見るだけでなく、パーソナリティや認知スタイルといった個人特性との相互作用をより重視することが必要である。こうした観点から、どのような形で訓練課題を構築するかについて現時点では脳の領域間結合の変化だけでなく、図的表現に対する視線の動きについて大域的であるかどうかを示す指標(Vogt & Magnussen, 2007など)の訓練に対する変化を調べることを検討中である。こうした課題構築に関してやや遅れがあり、2020年度はこの点について脳活動や視線計測といったより生理的な指標を中心にその影響を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
脳活動計測および視線計測ともに大学院生の研究補助者としての雇用をおこない、訓練課題構築と並行して進めることを目指す。さらに、視線計測に関して長年眼球運動の測定に関して装置の開発やその特性に関して研究を進められている愛媛大学の十河准教授に、視線の動きの大域性を識別する指標について助言を受け、より効果的な評価方法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に予定していた実験に関して、当初想定していたとりも参加者に支払う謝礼額が少なかったことにより、次年度使用額が生じた。これについては、2020年度の研究計画における実験の実施にあたって、学習やトレーニングの影響をみていく際に参加者あたり複数回の実験協力を依頼する必要性が生じており、その際の謝礼として使用する予定である。
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