補聴器で用いるハウリングキャンセラ用適応フィルタでは,適応動作の学習用入力となる信号と,補聴器自体の入力である外部入力とが強い相関があるため,適応フィルタの推定値が真値に収束しないことが多い.このため,適応動作の入力信号,適応動作の誤差信号の両方を疑似白色化して適応動作を行う方法を検討した.更に,補聴器のこの方法による適応フィルタでは,音楽や音声のように振幅が大きい周波数の配置が時変で偏在している場合に,入力信号の疑似白色化が十分に行うことができないこと,収束速度が十分ではないこと,等の問題がある.このため,以下のような計画で研究を進めた. 1) 周波数配置が時変で偏在している場合の問題については,適応動作の入力の周波数分布をできる限り変化させないよう白色化するために用いるフィルタとしてIIR型ノッチフィルタを採用することで対処することとし,シミュレーションにより確認した. 2)収束速度の問題については,学習の適応ループ内にリーク付き積分器を導入することで,効果があることをシミュレーションにより確認した. 3) 開発プラットフォーム上のアルゴリズムの選択肢を広げるため,上記の方法の他に,相関信号を用いた方法(エコーキャンセラに対して開発された方法)について検討し,この方法について,ⅰ) 学習の適応ループ内にリーク付き積分器を導入したLMS形アルゴリズム,ⅱ)簡易化したカルマンフィルタを用いた方法,を適用しハウリングキャンセラでもほぼ妥当な性能を持つことを確認した. また,上記の方法の動作のパラメータや結果表示をグラフィカルなユーザ・インターネース(GUI)から設定できるようにした.
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