研究課題/領域番号 |
19K03050
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
内山 哲治 宮城教育大学, 大学院教育学研究科, 教授 (10323784)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 科学教育 / 経験帰納的学習 / アクティブ・ラーニング / 教員支援 / 無意識 / 暗黙知 / 明晰知 / 素朴概念 |
研究実績の概要 |
今年度はコロナ禍であったが,高等学校と中学校において指導システムの実践を中心に研究を進めることができた。前期は実践校の選定・打ち合わせを中心に行い,後期に各校での講演および指導・実践を行った。 高等学校に対して,宮城県教育委員会と共に「「授業,総合的な探究の時間及び課題研究につながる探究的な学びの実践講座」~生徒の主体性の伸長と教員の気づきを高める活動~」(学びの実践講座)を立ち上げた。ここでは,個別の教員や授業を対象にするのではなく,学校を対象としたため,まず教育現場との関係作りを第一にし,われわれの指導システムを前面に出さず,来るべき2022年度実施の新学習指導要領(特に探究活動・課題研究)にスムーズに対応できるようになることを目的に掲げた。また「主体的・対話的で深い学び」の実践指導において,理数系だけではないのでわれわれの構築した現象論的数式表現ではなく,ビジネス書であるスティーブン・R.コヴィー著『七つの習慣』や『西遊記』などの書籍を引用した講義を最初に行った。管理職や改善中心教員の意識は高いが,対象が全校教員であることや外部からの指導・改善への反発もあり,多くの教員との壁を感じざるを得なかった。 中学校においては,新学習指導要領は2021年度から実施される。今年度は気仙沼市立の2つの中学校で実践した。ともに本大学卒業で代表者の教え子の若手教員が実践者となったため,忌憚のない意見交換や指導助言を行うことででき,実践授業の生徒が主体的・対話的な活動を行うことができた。また,その実践授業を参観していた教員からは,生徒が主体的・対話的な活動をする様子を初めて見た,という意見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の今年度は,申請時の予定では学校現場での実践を中心にすることにしており,特に高等学校に対しては宮城県教育委員会と前年度からプロジェクトの計画を立てていた。しかしながら,今年度のコロナ禍で学校現場が年度当初予定通り進まず,われわれの研究も全体的に後期中心になった。 高等学校においては,県教委から仙台市を中心とした宮城県内の主要高校への学びの実践講座の周知が6月で,7月に宮城野高校と名取高校の2校が決定し,9月末に1回目の実践が可能となった。年度内に各校3回の実践を行った。両校ともに探究活動の指導に対して強い危機感を持っているが,意識の高い管理職および中心教員が居る中で,「生きる力」の獲得や「主体的・対話的で深い学び」の実践に対して,これまでの自分の指導法を変えないという体制に反発する教員も多く,校内での共通認識・理解を伴う指導の困難さを感じた。しかし,高校での実践ができたのは,重要な一歩であると考えている。 一方,中学校においては,学校全体に対してではなく,特定の教員のみへの指導助言であったため,順調に授業実践まで行うことができた。新月中学校では,生徒から聞き取った日常の不思議を基に光・色に関するプログラム「物の見え方:葉はどうして緑色なのだろうか」を教員に作成してもらった。われわれからはその流れだと何が起こるかという助言のみで,あくまでも教員が主体的に考えるように仕組んだ。また,授業後数名の先生含め今回のプログラムおよび新学習指導要領のポイントについて話した。大谷中学校では,教科書で習う内容(力学的エネルギー保存則)が本当に正しいのか?を問うプログラムを教員に作成してもらった。受動的姿勢であった生徒が教科書と現実の違いを目の当たりにしたとき,主体的で対話的になる状況を正しく実践した授業になった。これらは正しく生徒が「主体的・対話的」であった証拠である。
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今後の研究の推進方策 |
指導システム構築と実践:コロナ禍の影響がまだ懸念されるが,まず中学校において,本学附属中学校,気仙沼市立新月中学校,気仙沼市立大谷中学校とは継続する。ここで,授業前アンケートとして,物理・理科に限らず生徒自らの日常生活の中であれ不思議だな?分からないな?を聞き取り,その疑問を教員の能力で授業課題に収束させるというスタイルが有効であることがわかったので,その実践例を物理チップスとして増やすことを考えている。ここには,研究室の院生・学生を中心に,物理から理科・環境に展開したい。 次に高等学校では,今年度同様,宮城県教育委員会と共同で学びの実践講座を展開する。すでに宮城野高校と名取高校とは継続が決定している。さらに2-3校の実践校を増やす予定である。ここでは,今年度計画していたがコロナ等の影響で実施できなかった実践,われわれが高校生の探究活動や課題研究の場面に入り,生徒への声掛け・助言等の実践を行う。そのあとに教員との意見交換を行い,われわれの本研究テーマである経験機能的学習に基づく声掛け・助言等を紹介・推奨する。また,進め方については,各校管理職とよく話し合いたい。また,県教委と計画している高校教員の有機的知的ネットワーク構築を検討したい。まずは校内(intramural)ネットワークを各校で構築し,今後,校間(intermural)ネットワークに拡張していきたい。このネットワークは,指導システムのモデルとなり得ると考えている。 これまで小学校での実践が滞っていたが,宮城県総合教育センターの実施する科学巡回指導訪問に同行する形で小学校等に伺い,午前の児童対象理科教室,午後の教員対象研修会において,われわれの経験機能的学習およびその実践を紹介する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ禍により遠隔地との打ち合わせ等がオンラインになった。また,実践においても実験を中心にするのではなく,指導助言が中心になった。そのため教員研究費等の別予算で対応し,請求した助成金に差額が生じた。次年度は高等学校の実践校を増やす予定であり,ここの対応に充当する予定である。
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