本研究は,中等教育における授業において,各学習者がタブレットにデリバリされた教材を閲覧しながら授業を受講し,ノートテイキングを行う中で,学習者同士で能動的な学習を促すことが可能なシステムを開発・評価するものである.また,学習を促すだけでなく,学習者の自己調整学習(Self-Regulated Learning:SRL)能力の循環過程を授業内で回し,学習方略に関して他者からの援助を得ながら学習者の自己調整学習能力の向上を目的として開発される.学習を促すことに関しては,学習者に情報を与え,援助を行うことから,行動経済学の分野で盛んに研究されているナッジ(Nudge)を教育に援用し,学習の促しの実現を測る.本研究の目的を達成するため,研究全体を3テーマ(タブレット端末におけるノートテイキングの基礎研究・システム開発・システムの効果測定)に分けた. 2021年度は,昨年度の課題を踏まえ,開発したシステム(NoTAS)に不明箇所専用のマーカーおよび,不明箇所の可視化機能等を新たに追加した.システム評価実験では,参加者を募集し,実験室環境でNoTASの効果測定を行った.NoTASの可視化機能の有無により2群に分け,質問紙,ノートテイキングログをもとに調査を行なった.質問項目の群間比較から,可視化機能によって,学習者は他者との信頼感や結束力を感じ,ノートテイキングに関する逐次フィードバックを受けたと感じていることが示唆された.質問紙調査から,NoTASの可視化機能は,共同体意識や社会的存在感を有意に感じさせ,学習者間の相互作用を促進することが示された.さらに,重要箇所の可視化はノートテイキングを促進し,メモや不明箇所の可視化は授業者の説明に注意を向けさせることから,可視化の種類(メモ,重要箇所下線,不明箇所下線)によって異なる学習方略を促進する可能性が示唆された.
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