研究課題/領域番号 |
19K03080
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
山口 忠承 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (60295722)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核磁気共鳴装置 / 有機化合物 / 化学構造 / ICT教材 |
研究実績の概要 |
有機化合物の化学構造を知るために中学や高校の現場で活用できる可搬型の核磁気共鳴装置(NMR)を活用し、化学実験中に核磁気共鳴装置を用いて有機化合物の化学構造を解析できる利点を生かして、化学的構造と物理的性質を関連づけることの可能な教材開発に作製と、解析結果を説明できるICT教材の開発を行う。開発した教材の教育効果について授業実践を通じて調べ、核磁気共鳴装置の実際の利用を促すための研修会を行う。 1年目は、2種類の可搬型核磁気共鳴装置を用いた化学実験教材の開発と、その化学実験教材を用いて授業実践を行った。そして、実験を説明するための提示教材の提示内容と手法について検討を行った。1つめの化学実験教材として、高校教科書記載のサリチル酸を原料としたサリチル酸メチル、アセチルサリチル酸の合成と小型核磁気共鳴装置による評価法の確立を行い、それに関する提示教材の作製を行った。実験の手法の1つとして、問題解決学習の手法を学ぶ学生実験の中で、融点測定や薄層クロマトグラフィーとともに有機化合物の化学構造を評価する1つの手段として授業実践を行った。2つめの化学実験教材として、グレープフルーツ等から抽出されるリモネンの実験の開発を行った。化学の教材開発を学ぶ大学院生の授業の中で核磁気共鳴装置を用いたリモネンの化学構造解析の実践を行った。いずれの実践も理科実験室で有機合成や精製などの操作は学生が行い、化学構造の解析は実験で得られた試料を用いて、あらかじめ準備した提示用教材と試料の測定結果を提示しながら教卓上で行うことができた。通常行わない構造解析の方法の説明であったが、装置を使う目的を事前に簡単に説明し、装置の原理とデータの読み方の説明を測定後に行うと実験への関心と理解が高まった。これに加えて、県内の高校の理科の先生方の研修会での研究を紹介する機会があり、研究課題に関して意見を聞くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核磁気共鳴装置を利用した教材開発として、高校の教科書に記載されている有機化合物のサリチル酸を原料とした実験では、実験の手順や生成物が市販の試薬の場合を用いたときと異なる点が見つかり、1年かけてどのようにすれば市販の試薬と一致する結果が得られるか調べた。教材の実践リモネンの実験を行い、授業実践として大学院生向けに行った。実験スケールの見直しや、実際の核磁気共鳴装置による測定とデータ解析の順番の検討を行った。また昨年7月に県内の高校理科の先生約170名に対して研修会の中で核磁気共鳴装置を用いた研究の紹介を行った。核磁気共鳴装置で何ができるか知っている先生は4人のうちで1人の割合であった。研修会の成果として、1件ではあるが実際に可搬核磁気共鳴装置による計測が行われた。いくつか問題点もあるが1年目の成果としては十分であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
化学教材として、サリチル酸を原料にした実験教材とグレープフルーツの実験教材を開発した。高校化学の教科書や図録を参考にして、高分子と低分子の関係を示す化学教材や、タンパク質や糖に関係する教材、高校生物に掲載のアルコールの発酵等、新たな化学教材の開発を行う。各課題に対して実験の効果や問題点を明らかにするために、いくつかの課題について、まずは大学の教材開発の実験授業での授業実践を通じて検証を行い、実施の可能性や問題点を明らかにしていく。授業実践を通じて、装置の必要性と装置から得られる情報の有用性を最初に提示することが重要であることが分かった。これを踏まえて、実際の化学実験を含めたICT教材の開発を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の若干の変更があり、本研究で用いる試料を純粋にするための装置を次年度に購入することにしたことと、新型コロナの影響で2020年3月の学会発表に伴う出張が中止になったため。
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