研究課題/領域番号 |
19K03137
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大向 隆三 埼玉大学, 教育学部, 教授 (40359089)
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研究分担者 |
近藤 一史 埼玉大学, 教育学部, 教授 (40178421)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放電ランプ / 仕事関数 / 実験教材 |
研究実績の概要 |
本研究では、放電管の一種であるホロカソードランプを用い、まったく新しい発想によって仕事関数を求める実験教材を完成させることを目的としている。 2019年度は、測定できる仕事関数(限界波長)値の高精度化をはかるために、データ解析方法の改善と実験装置の改良に取り組んだ。 今までの研究結果から、光電効果信号強度が弱い、限界波長周辺での測定データが仕事関数の誤差を大きくしている原因ではないかと疑われたため、まず、光を照射していない状態で検出できる信号強度(ノイズレベル)の測定とその統計的処理を行った。そのうえで再度限界波長測定実験を行い、得られた信号強度の値が前述のノイズレベルを超えている信号は除外して限界波長の値を算出し直した。その結果、印加電圧100 V から 600 V までの全ての条件でセシウムの限界波長の最確値は 662 nm となり、誤差の範囲を考慮して他の実験方法の報告例(634 nm)と一致する結果が得られた。昨年度までは誤差範囲を含めても一致しないケースが生じていたので、今回の新たな解析方法で限界波長算出の精度が向上したと結論できた。 次に、実験装置の光源を高出力LEDに換える研究に取り組んだ。本研究装置構成に大きな変更を生じることなく組み込むことのできるLED光源を選定し、セットアップを完了させた。実験データを取得するには至らなかったが、2020年度にすぐ測定を着手できる状態まで準備を終えている。仕事関数の値は様々な物理的条件・環境によって同じ元素でも大きく変化することが知られているので、ここで測定できる多種の元素の精密な仕事関数の値は実験教材としての活用のみならず、表面物理の分野で学術的な貢献ができるとも期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高出力のLED光源装置を選定する作業に予想以上の時間を要した。出力パワー、出力波長、出射角度、操作性、安定度などに制限があり、いくつかの製品を慎重に比較・検討して選定しなければならなかった。また選定後も、必要な波長のLEDを購入するのにメーカーの都合で突発的な遅延が生じてしまった。光源が入手できないと選定できない附属品(ホルダー、ベース、固定用具など)も購入が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は2019年度で実験できなかった、高出力LED光源を用いた限界波長の精密計測実験に取り組む。測定の精度、我々の限界波長の値と過去の測定例の差がどれくらい生じるかを明らかにしていく。 これに加え、今まで測定に用いてきたCs以外の金属でも我々の新しい測定方法で仕事関数測定を可能にできるような汎用的な測定法になるよう改良を加える。放電ランプの交換だけで異なる元素の仕事関数を測定でき、それらを比較できる教材にする。可視域の波長に限界波長を持つCs以外の元素のHCLに換えて、カリウム(限界波長 539 nm)、ナトリウム(同 544 nm)、ユウロピウム(同 496 nm)などで我々の高精度な仕事関数測定法を適応することを試みる。 また、特別な測定機器を用いずに高感度な光電効果信号を検出できるよう、高いQ値を有するフィルター回路でそれを検出できるようにする研究も行う予定である。具体的には、①多重帰還型バンドパスフィルター、あるいは②二段増幅型バンドパスフィルターを候補として試作し、これらを使って仕事関数の測定を実現させる。これにより実験者の作業負担を軽減し、本来の学習内容だけに集中できる実験教材へ改良することを狙う。
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次年度使用額が生じた理由 |
高出力LED光源の選定及び納品の遅延により、光源の関連部品の購入ができなかった。また、光源を使って測定する実験が実施できず、そこで使用する物品の購入も間に合わなかった。これらの未購入物品に充てるはずであった金額が次年度使用額として生じた理由である。光源は2019年度内に納品されたので、2020年度は上記物品の購入に使用する。実験の進捗に応じて追加でLED光源(波長の異なる製品)を購入することも予定している。2020年度分として本来購入する予定であった物品は、これらと並行して予算執行する。
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