A. diSessaの断片知識論について引き続き検討を行い、p-primsという考えの普及に努めた。物理学会における発表シリーズ(5)においては、板倉聖宣によって提唱された仮説実験授業の実践記録を用いて、diSessaが同定している各種p-primsの発現を例示した。その際、diSessaの主張とは反する学習者の挙動として、「抵抗」の考えが反比例的でなく(負係数の)比例的に現れる傾向を見出し、筆者や共同研究者の実践経験データや、diSessaの共同研究者B. Sherinのデータにおいても同様の傾向が見られることを指摘した。これは断片知識論における中心p-primである「オームのp-prim」の要素性に対する疑義であり、理論の精緻化に向けてさらなる研究の必要性を指し示している。 またシリーズ(5)でp-prims普及のため、やや単純化した解説(「物理学者もp-primsをリサイクルしています」)を行ったため、この点をめぐる質疑が生じた。その論点として「p-primsの要素的・断片的性格が熟達者に対しても成立する」という認識が含まれるように思われたため、シリーズ(6)において、熟達者の理論的知識におけるp-primsの異なる役割・機能として「(原理まで還元しない)現象論的ショートカット」「普遍法則を個別状況に適用するためのキー」という性質を解説した。また「概念形成」の議論に関して、その評価ツールである「概念テスト」のスナップショット的性格と、概念形成プロセスのp-primsモデルであるcoordination classの考えを解説した。その経験的データとして筆者自身の「重さ」と「押す力」に関する(先行研究を踏まえた)実践経験を具体例とした。また、優れた教育実践データを引用させていただくことで、未習者・初学者・中級者の判断・推論に共通のp-primが見出せることも示した。
|