研究課題/領域番号 |
19K03141
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
梶原 裕二 京都教育大学, 教育学部, 教授 (10281114)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | X線 / 増殖細胞 / 細胞分裂阻害 / ブロモデオキシウリジン / 自発的細胞死 / 両生類 / 代替動物実験 |
研究実績の概要 |
動物が正常に発生し、体を維持していくには、細胞分裂とともに、細胞の維持、細胞死が協調して働くことが必要不可欠である。発生中の胚や幼生に限らず、成体でも細胞分裂や細胞死が生じるように、動物体内では多様な細胞の動態が生じている。加えて、例えば、動物に放射線など外来の要因が作用し、体内にDNAの損傷、活性酸素による生体分子の障害の結果、細胞分裂が阻害されることも生じる。しかし、高等学校の実験としては、これらの動的な生命現象を捉えるものはほとんどない。申請者はこれまで、(1)学校で実施できる動物組織の簡単な実験法、(2)哺乳類の代替動物として、動物愛護管理法に直接関わらない魚類・両生類の増殖細胞の簡単な検出法を考案した。特に、容易に使用できる魚類や両生類の分裂細胞の検出は、生徒や教師自身の学校で動物体内で生じるダイナミックな細胞動態を知る貴重なものとなる。本研究では、発生や個体の維持に必須の自発的な細胞死(アポトーシス)と、動物が放射線など外来の物理的要因によって細胞分裂を抑制される現象に焦点を当て、これまでの細胞増殖と併せ、脊椎動物体内における多様な細胞動態を実感する実験系を開発する。加えて、中学校や高等学校での放射線の性質を知る教材は、検出機器による放射線量の実測や霧箱を利用した放射線の飛跡を見るような物理分野の教材のみである。しかし、放射線はレントゲン撮影、癌治療や滅菌などの医学分野の利用など、生活に身近なものであるが、生物分野における教材はほとんどない。そこで、成体への放射線の影響、細胞死の誘導や分裂細胞の阻害、細胞増殖の回復を検討し、生物分野での放射線科学リテラシーを涵養する教育の充実を図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物愛護管理法の改正で、本来、マウスなど哺乳類や羊膜類を実験動物として使用するには種々の規制があり、生命系大学においては可能であるが、一般の高等学校や大学初期課程では、哺乳類を用いた実験を簡単には実施できない。そこで本研究室では、「哺乳類の代替動物として、魚類のキンギョや両生類のアフ リカツメガエルを用いた組織実験」を考案し、哺乳類と同等の実験系であることを示した。さらに、分裂細胞の標識方法として、高額な蛍光顕微鏡を使用せず、通常の生物顕微鏡で観察できる ブロモデオキシウリジン(BrdU)ー酵素を用いた組織化学的方法で検出した。昨年度は、生物分野の放射線の科学リテラシーの充実の視点を重視し、X線を幼体に照射し、細胞分裂への影響を観察する実験を行なった。まず、X線の照射装置として、小動物のレントゲン撮影用の軟X線を出すSOFTEX(M-150WS)を用い、線量率100R/minの照射条件とした。実験動物は生後一年のアフリカツメガエル幼体を用いて実験を行った。今年度は、実験材料の入手しやすさと、組織標本の作りやすさを目的に、より大きなイモリ成体を持ちいて検討した。イモリ成体は再生能力が高い現象を利用し、前肢の半分を切除し、再生芽の分裂細胞の誘導と、X線による細胞分裂の検出を試みた。前肢を切断一週間後、BrdU(10mg/ml)をイモリ成体(投与量1mg/g)に腹腔内投与した。イモリを3匹づつ2群に分け、対照群、2Gy照射群とした。飼育水にもBrdU (1mg/10ml)を加え、経口標識を行なった。48時間の標識時間とした。この照射条件で、イモリ成体は外見上正常であった。この結果から、今後、X線の照射量として1Gy-2Gyを用いることとした。
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今後の研究の推進方策 |
生徒自身の学校でも実験・観察できる両生類を、一般的な哺乳類の代替動物として、簡易凍結徒手切片法を用いて、細胞増殖・DNA複製、細胞死、放射線による細胞増殖の抑制という、多細胞動物の体内で生じるダイナミックな細胞動態を理解する教材と、生物分野の放射線影響を理解する教材を開発する。 (1) X線照射によるイモリやカエルの体内で起こる細胞増殖の抑制を、簡易凍結徒手切片法で組織標本を作成し、理解する教材開発を進める。 (2) 細胞増殖とは逆に、細胞死を組織の場で観察する簡便な手法を開発する。実際に細胞死が生じているアフリカツメガエル(変態中の幼生)の尾や後肢芽の水かきの組織切片を簡易凍結徒手切片法で作成する。細胞死はTUNNEL法(TdT(Terminal deoxynucleotidyl transferase)3’末端にヌクレオチドを転移する酵素) を用いて検出する。 (3) 変態中の幼生にX線を照射し、DNA断片化や細胞死が誘発、細胞死が加速されるかどうかをTUNNEL法で検出する。これらの実験系を開発し、多細胞動物の体内で生じている細胞動態を理解するとともに、放射線の生物影響を理解する教材を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
若干の残額があり、R3年度分の科研費と合わせ有効に活用する
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