これまで煩雑な手法により避けられてきた動物組織を観察する実験について、学校でも実施できる簡単な簡易凍結徒手切片法を考案し、新たな動物組織を観察する実験を開発してきた。また、動物愛護管理法により実施しにくい実験材料である哺乳類マウスの代替として、両生類のカエルを用いて細胞分裂を観察する実験を考案した。この結果を受け、放射線が生物に深刻な影響をもたらす実験の考案を検討した。 中学校や高等学校において、放射線科学リテラシーの教育は、医学・工学における放射線の積極的な利用の観点から重要な課題である。しかし、放射線の実験は、霧箱の利用など物理分野に限られ、分裂細胞が放射線に脆弱であるという生物影響を知る実験はない。そこで、高等学校で実施できる両生類の増殖細胞に対する放射線の影響を調べる実験を検討した。その結果、1-2GyのX線照射でが両生類のカエル幼生の生存には全く影響しないことがわかった。チミジンの相同体であるブロモデオキシウリジン(BrdU)を用いた免疫染色を実施した結果、カエル幼生の小腸では、2GyX線照射で、分裂細胞は存在し、小腸組織に乱れは見られなかった。生命科学で使用されるマウスの小腸上皮において、1GyX線の照射で分裂細胞がほぼ消失する。これはマウス小腸の分裂細胞が放射線に脆弱であることを理解する実験である。しかし、本研究の結果では、カエルの小腸の分裂細胞は2Gy X線照射にもかかわらず、分裂は消失しなかったことから、マウス小腸のそれと比較して、放射線に耐性があり、X線による分裂細胞の抑制を理解する実験としては、カエルの利用は難しいことが分かった。マウス小腸とのX線の影響の違いは、哺乳類では小腸上皮細胞が小腸基部クリプトに存在する小腸上皮幹細胞システムに連続的に生産されるのに対して、カエルでは分裂細胞が小腸に散在し、分裂細胞の供給システムの違いが要因とも考えられる。
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