研究課題/領域番号 |
19K03149
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
杉尾 幸司 琉球大学, 教育学研究科, 教授 (20433089)
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研究分担者 |
齊藤 由紀子 琉球大学, 教育学部, 准教授 (30626106)
富永 篤 琉球大学, 教育学部, 准教授 (60452968)
福本 晃造 琉球大学, 教育学部, 准教授 (80549816)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 理科教材 / 亜熱帯 / 自然環境 |
研究実績の概要 |
本研究は、亜熱帯地域と温帯地域に生息する身近な生物の比較を通して「生物の多様性(地域性)と共通性」を実感できる教材を開発し、授業実践による有効性の検証を行う事を目的に実施している。これまで、亜熱帯地域の身近な自然環境に対応した理科教材の研究開発が、十分に行われてこなかった理由の一つに、教材開発の基礎となる対象生物に関する情報の不足があげられるため、本研究では、対象となる生物の基礎的な生態調査とその結果を活用した教材開発に注力して実施している。本年度の動物の研究では、PCR-RFLPの手法を用いた琉球列島の両生類や家畜の種の同定を行う手法を高校の授業や課外活動で実践する教材づくりを行った。その他、教材の素材として活用するために、日本や琉球列島の動物の多様性、基礎生態に関する研究を実施している。また、植物については、身近な生物の季節性に関する生態的特性を明らかにするための観察に適している種を探索する目的で、沖縄島北部に位置する古宇利島に野生する維管束植物の調査を行った。その結果に加えてこれまでの現地調査により収集された標本、目視記録、画像記録および琉球大学教育学部植物標本室 (URO) 、同学理学部標本室 (RYU) ならびに国立科学博物館 (TNS) の所蔵標本に基づき古宇利島に野生することが確認できた維管束植物のデータをまとめ、植物目録を作成し報告した。開発した教材は、授業協力校において授業で使用し、その成果について検証する予定であるため、教材の質的評価方法を確立するため「一枚ポートフォリオ評価(OPPA)」を使用して、「学習前・後の本質的な問い」「学習履歴」「自己評価」の各項目についての質的検証方法について検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物の研究では、PCR-RFLPの手法を用いた琉球列島の両生類や家畜の種の同定を行う手法について高校の授業や課外活動で実践する教材の開発を行った。最終的には、作業時間の短縮化を念頭にいくつかの実験手順について比較検討を行い、DNA抽出から、PCR-RFLPの電気泳動像確認までを4-5時間程度で行うことのできる教材を開発した。また、高校において一部の工程を授業の中で全工程については課外活動で実践し、教材の効果について分析を行った。その他、基礎的な生態資料の収集のために、イボイモリの生活史研究、ハロウェルアマガエル幼生の表現型可塑性に関する研究、リュウキュウカジカガエルの発生段階図表作成、外来両生類の食性解析、両生類の多様性に関する研究、進化学的研究、沖縄島のミミズの多様性やシロアリの生態研究等を進めた。また、植物の研究では、沖縄島および周辺小島嶼に自生する植物の季節変化を捉えるため、これまでに実施してきた今帰仁村古宇利島の現地調査によって得られたデータをまとめた。その結果を踏まえ、今年度は、生物季節(フェノロジー)を把握するために必要と考えられる季節のデータを補うために追加の現地調査を行った。現地調査では出現した植物を目視により記録し、適宜標本を採集するとともに、出現種の形態や生育状況を撮影した。さらに、既収の標本調査も合わせて行い、植物相に関する調査データを補完した。これらの調査結果に現地調査による記録や文献の記述を加え、花期、果期、胞子期、落葉期など種ごとのフェノロジーを可能な限り推定し、種のリストとともにフェノロジーを登載した今帰仁村古宇利島の植物相として報告した。その他、教材の質的評価方法を確立するために、高校の探究活動等においても「一枚ポートフォリオ評価(OPPA)」を使用して生徒の認知レベルの変化について検証を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
動物に関する研究では、PCR-RFLPの手法を用いた動物の種の同定に関する教材開発とその実践や、リュウキュウカジカガエルの発生段階図表作成について、十分にデータが集積されたので、論文化を目指す。その他、沖縄の動物(シリケンイモリ、トカゲ類)の基礎生態に関する研究を行い、教材の基礎資料を蓄積するとともに、沖縄島のミミズの多様性研究などについては更なるデータの蓄積のために研究を進める。植物に関する研究については、本調査で得られた結果をもとに、沖縄でも季節変化に応じた開花→結実→落葉の観察が可能だと思われる種を選定して定点観察を実施し、年間を通した観察結果が得られる試料としての活用を検討する。また、教材化のための基礎資料としての利用も踏まえ、古宇利島以外の沖縄島周辺小島嶼についても四季を通じた調査データを蓄積する。その他、教材の評価については、質的研究手法について検討を進めると共に、探究活動等においても活用可能なより広範囲に使用できる方法等についても検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物調査において試料の収集量が不足していたため、分析作業を次年度に行う必要があり、次年度使用が生じた。新年度に追加の試料を収集し改めて分析を実施する。
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