研究課題/領域番号 |
19K03152
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中釜 達朗 日本大学, 生産工学部, 教授 (50244421)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 科学教育 / 実験システム / クロマトグラフィー / 抽出 / 化学反応 |
研究実績の概要 |
当該年度は,特に「色を分ける」(分離場を可視化した液体クロマトグラフィー(HPLC)システム)に関して単機能ユニットパッケージの開発と実験システムの構築を検討した。本研究では,なるべく安全な試薬を用いて閉鎖的な小空間で現象を発現させる。従来のHPLCではメタノール,アセトニトリルあるいはギ酸などの医薬品外劇物を移動相用溶媒として使用する。当該年度はこれらの化学物質に代替する環境調和型溶媒や試薬を用いた移動相で従来のHPLC挙動を再現できるかを検討した。まず,酸性物質分離用移動相として広く用いられる水-メタノール-ギ酸混合移動相の代替として水-プロピレングリコール-α-ヒドロキシ酸(酒石酸,クエン酸および乳酸)混合移動相の適用可能性に関する検討を行った。①液体クロマトグラフィーにおける保持および分離挙動,②保持の温度応答性(熱力学的特性)および③重回帰分析による保持の相互作用解析の3つの観点から2つの移動相の類似性を検討したところ,代替移動相として適用できることを示唆した。さらに,水-アセトニトリル-ギ酸混合移動相の代替として水-プロピレンカーボネート-α-ヒドロキシ酸混合移動相についても①~③の観点から代替移動相として適用できることを示唆した。一方,分離場を可視化した液体クロマトグラフィー(HPLC)システムを使用した授業実践への足掛かりとして,クロマトグラフィー理論の1つである段理論を教育の場で効果的に教授できる簡易シミュレーション教材を試作し,担当する授業で実践して教育効果を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度および令和2年度において,単機能ユニットパッケージの開発と実験システムの構築と実証を行う計画である。各ユニットの組み合わせにより,①「色を分ける」(分離場を可視化した液体クロマトグラフィーシステム)②「色を変える」(液体プラグを反応場としたフロー化学反応-分光測定システム)および③「色を集める」(液滴を抽出場としたフローマイクロ抽出-分光測定システム)を構築する。 当該年度において,分離場を可視化した液体クロマトグラフィーシステムについては単機能ユニットパッケージの開発と実験システムの構築は終了している。他2つのシステムについても検出ユニット(透明なフローセルおよびスパイラルセル)の開発がそれぞれ終了すればシステムの構築が可能である段階にあり,令和2年度において計画を達成できると考える。一方,いずれのシステムも実証までは進めなかったが,当該年度において本システムに適用できる移動相に関する知見は得られたため,全体の研究遂行に対しては影響しないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は,まず,令和元年度の知見を基に分離場を可視化した液体クロマトグラフィーシステムの実証実験を行う。モデル試料として可視化しやすい色素を用い,透明カラムを用いた分離挙動の可視化と吸光度および蛍光測定による実測を行う。一方,「色を変える」(液体プラグを反応場としたフロー化学反応-分光測定システム)および「色を集める」(液滴を抽出場としたフローマイクロ抽出-分光測定システム)の構築も並行して行う。 令和3年度は,実験システムを用いたアクティブラーニングの試行と検証を行う。仮説実験授業は実験問題についての予想,討論,実験での検証という一連の流れにそって組織される授業である。本研究では,現象のイメージ付けとして演習実験を,実験検証と理論を直結させて理解度を深めるために事後討論および教員による解説をそれぞれ加えた授業を行う。通常,液体クロマトグラフィーにおけるカラム内の分離挙動は直接観察できないことから,当該年度における試行は「色を分ける」実験システムを用いる。本研究では,該当単元の確認試験および期末試験結果から学修者の理論の理解度および保持を,ポートフォーリオあるいは授業評価アンケートから学修者の意識をそれぞれ検証する。必要に応じて学修の流れや実験システムを変更して授業実践を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において構築を予定している3つのシステムにおける検出ユニットについては,当初,吸光スペクトルおよび吸光度測定を想定したパス長可変Z型フローセル(オーシャンオプティクス,FIA-Z-CELL-PEEK)のみを使用する予定だった。しかしながら,教育効果を考えた場合,以下の理由により蛍光測定用セルと併用したほうがより高いと判断した。 ①分離システムのモデル試料として使用する予定の色素には蛍光性を有する色素(フルオレセイン,ローダミンBなど)もある。したがって,併用によりモデル物質の同定がより容易になる。 ②抽出システムにおいては金属イオンとの錯体形成により蛍光性を発現するキレート剤の適用が可能になる。 以上の理由から,令和2年度において蛍光測定用フローセル(オーシャンオプティクス,FIA-SMA-FL-ULT)を購入する予算として当該年度の物品費の一部を次年度に繰り越す。
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