本研究は、理系の日本人学生と日本語非母語話者である留学生とが、日本語において問題解決型や課題探求型の話し合いを行う際、どのような過程を経て結論に至るのかについて、日本人学生側に注目し分析したものである。これは日本の一層の多文化共生社会を見据え、将来の職場環境下でも円滑な対話ができる人材を育成するための教材開発の基礎資料を得ることを目的としている。話し合いのデータは、課題のタイプ、学年差、異なる意見を持つ場合等の条件を変えて収集した。 2023年度においては、学年差に注目し、同学年の留学生と日本人学生との4者による話し合いと、留学生のほうが学年が上の場合における話し合いでの合意形成に関する論文を発表した。本論文では、同学年間での話し合いでは留学生の発言に日本人学生が従う傾向があること、その一方で、院生留学生との話し合いでは日本語力の面から日本人学生が司会を担当するも話し合いが停滞した場合に十分に参加者を活かすことができていない様子が観察され、多文化な環境下での話し合いのトレーニングが必要であることを報告した。また、上級学年留学生との話し合い時における日本人学生のスピーチレベルシフトに関する論文も発表した。ここでは、通常、丁寧体が使用されるべき状況でのダウンシフトの現象を取り上げ、分析した。さらに、2023年後半には、意見が異なる者同士による2者間の話し合いを分析した。一つの特徴として、一方が新情報を提示すると、十分に意見が交わされぬまま、もう片方が自分の意見を変えてしまうといった現象が見られた。 研究期間全体を通し、話し合い時の係の配置とその役割実行、明確な言語による合意確認といった基本的な事項の定着や、留学生との話し合いでのハイコンテクスト回避、対人関係コミュニケーションを意識したスピーチレベル管理、異なる意見の調整といった点に課題があることが明らかとなった。
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