本研究は、「弱いロボット」の概念を用いて認知症高齢者を介護する介護者の負担を軽減させることを目的としている。認知症高齢者と介護者の間にロボット を介在させることで、介護者の心理的負担軽減を試みている。また、ロボットの開発課程を課題解決型学習(以下、PBL)として教材化することも目的の一つで あ る。これによって、工学系学生が介護の現場に参加する機会を作り、介護や医療の専門家以外の若年層を介護に参加させることで、介護者不足の解決の一端を 担うことを期待している。 この研究期間では、開発したロボットを高齢者デイケア施設で試行を繰り返し、その効果の評価が目標であったが、2020年度から始まったCOVID-19の感染拡大で、施設での検証ができなくなってしまったので、基本的な人のロボットへの親和性の評価、および高齢者個人、学生、ロボットの相互作用の分析を行なった。 人のロボットに対する親和性の評価については、ヴイストン社の人型コミュニケーションロボットSota を用い、ロボットの視線、身振り、声がけに対する人の反応を調査した。実験では、ロボットが近づいた人に反応し、顔を向け声をかけたときの、被験者の印象をアンケート調査した。その結果、頷きや手を振るなど人のコミュニケーションで普通に見られる動作がロボット相手においても親和性向上に重要であることが明らかになった。 また、ヴイストン社ピッコロぼを用い、高齢者個人と学生、ロボットの三者で試演を行い、三者の相互作用を観察した。三者の行動を状態遷移モデルで表現し分析を行った。試演当初は、高齢者と学生の対話が主で、ロボットは高齢者から見れば単なる機械と扱われていたが、ある時点から好意的な存在として扱われるようになることが観察された。今後、どのような過程を経てロボットへの好意的興味が生じるか、さらに調査する予定である。
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