研究実績の概要 |
本研究の全体的目的は,社会的認知研究の測定手法等を応用して,潜在レベルでの攻撃への態度が,攻撃スクリプトや攻撃行動に及ぼす影響を明らかにすることであった。2023年度は,この目的に対して,マウストラッカー課題(Freeman et al, 2010)を用いて潜在レベルでの攻撃への態度が将来の攻撃行動を予測できるかどうかを検討することに加えて,攻撃的な思考を抑制することで顕現化する攻撃スクリプトが攻撃行動を関連するかどうかを検討することを目的とした。 2023年度は,前年に実施した実験のサンプルを増やし,それらのデータについて分析を行った。その結果,攻撃語呈示によるネガティブ語への反応促進が小さいほど,攻撃行動を示しやすいことが示唆された。次に,マウストラッカー課題によって測定された攻撃への潜在的態度と攻撃スクリプト及び被挑発時の攻撃行動の関連について検討した。この課題では,対象者に攻撃語をプライミングした後に,単語をポジティブ語とネガティブ語のどちらかに分類するように求めた。また,攻撃スクリプトは,4種類の対人葛藤場面において想定される攻撃行動に関する文章を再認刺激として呈示した再認課題を実施し,判定刺激へのフォールスアラーム率を攻撃スクリプトの指標とした。さらに,攻撃行動はVoodoo doll task(Dewall et al., 2013)により測定した。その結果,攻撃への潜在的態度と攻撃スクリプト及び挑発された時の攻撃行動との間に関連は見られなかった。以上に加えて,攻撃的思考を抑制することが,逆説的に攻撃スクリプトの活性や怒り感情の喚起を介して攻撃行動を誘発するかどうかを,Web調査によって検討した。その結果,予想通り,攻撃的思考を抑制するほど,他者を傷つけるスクリプトを多く喚起するとともに,怒りを感じやすく,攻撃行動に至りやすいことが示された。
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