第一に、暗黙の能力観を扱った2つの質問紙実験(昨年度にStudy 2を実施)から成る英語論文が、審査を経て学術誌に採択された。この研究では、成績不振の学習者の努力量を操作したシナリオを参加者に呈示し、指導者の立場で評価やアドバイスを行うよう求めた。すると、実体理論的な傾向の強い参加者ほど、失敗した生徒の努力量が十分である場合に、不十分な場合に比して教科の変更を勧める助言をより強く行ったのに対して、増加理論的な傾向の強い参加者ほど、助言に際して努力量を考慮しなかった。こうした結果を踏まえて、暗黙の能力観が自他の相互作用を通じて再生産されるメカニズムを論じた。 第二に、成員の多くが支持していない「不人気な集団規範」が多元的無知によって維持される現象について、現実社会に存在する規範を題材とする複数の調査研究を実施した。各々の調査で扱った規範は以下の通り:①職場における男性の育休取得規範、②共働き夫妻の家事分担規範、③新型コロナ感染症禍における感染予防行動規範、④豪雨災害時における避難行動規範。このうち④では、都市部と地方との避難行動の差異を扱った先行研究を足がかりとして、関係流動性や人口密度といった社会環境変数が避難行動規範に対する自他の認知にどのように関わり、それらが避難行動の抑制・促進にいかなる影響を及ぼすかを検討した。 第三に、職場研修における集団討議において集団内の他者からの評判低下が懸念される2場面を描写したシナリオを作成し、場面想定法によって参加者の規範遵守/逸脱行動の意図を測定する質問紙実験を日米比較研究として実施した。 第四に、これまでの研究成果の一部を国内外の複数学会の年次大会で発表した。また、過年度に公刊された共同研究の成果論文『ダイバーシティ信念をめぐる多元的無知の様相:職場におけるズレの知覚と誤知覚』が2022年度日本社会心理学会賞(優秀論文賞)を受賞した。
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