本研究では,多職種チームでの効果的な協働の基盤となるメンバー間の関係(ネットワーク構造)とその特徴を明らかにすることを目的とする。具体的な研究項目は以下の3点である。1.多職種チームにおいて各職種の認識する協働の必要性と実態をネットワーク構造として解明する。あわせて,職種間でどのような認識の差異があるのかを明らかにする。2.多職種チームの協働関係にみられる特徴(ネットワークの構造的特徴)が,チームの効果性とどのような関係にあるのかを明らかにする。3.多職種チームにおける効果的な協働を実現する条件について,得られた知見を基に理論的に整理する。 最終年度である令和3年度は,学校組織における問題発生場面として,児童・生徒の不登校,いじめ,学力不振等を取り上げ,多職種協働のとらえ方に関する教師の認知に着目した実態調査を行った。全国の公立小・中学校に勤務する教師からWeb調査への回答を得て,多職種協働を構成する行為者間の認知社会的ネットワークを援用して,その構造を把握することができた。分析の結果から,学校での多職種間での協働関係には「理想」と「現実」に乖離がみられるとともに,問題対応において教員組織中心での協働が選好されている傾向が示され,「チームとしての学校」を実現するための協働体制構築の課題が示唆された。この研究成果は国内学会でのシンポジウムでの話題提供,および研究発表で報告を行っており,今後,多職種協働に関する理論的示唆の総括とともに論文としてまとめていく予定である。 本研究の内容と成果は,多職種での協働を認知社会的ネットワークの視点で可視化することにより,効果的な協働体制のアセスメントと介入の方策を開発するための基盤的な知見を創出したといえる。しかし,調査対象が学校組織の教師に限定されたこと,またチームの効果性を示す成果指標との関連を十分に検討できなかった等の課題が残された。
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