研究課題/領域番号 |
19K03194
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研究機関 | 北星学園大学 |
研究代表者 |
眞嶋 良全 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (50344536)
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研究分担者 |
鈴木 紘子 (中村紘子) 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 助教 (30521976)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会系心理学 / 実験系心理学 / フェイクニュース / 陰謀論 / 二重過程 |
研究実績の概要 |
本年度は,まず第一にフェイクニュースを信じる背景にあると推測される陰謀論信念の構造の文化差の検討を行った。陰謀論信念の測定尺度として,Brotherton et al. (2013) と,それを日本語化した,Majima & Nakamura (2020) による「一般的陰謀論者信念尺度 (Generic Conspiracist Belief Scale) を用い,日本人参加者 (クラウドワークス,N = 307) と西洋参加者 (Prolific, N = 309) に同尺度への回答を求めたところ,原著の5因子構造,Majima & Nakamura が見いだした2因子構造ともに,文化間で構造不変性は確認されたが,測定不変性については部分的不変性のみが満たされた。また,5因子中4因子で信念の程度に文化による差が見られたが,日本の方が高いものと,逆に日本の方が低いものが混在し,陰謀論を測定するにあたって,内容の文化差について配慮する必要があることが示唆された。 次に,フェイクニュース,陰謀論に対する信奉の背後に,思考の二重過程があることが指摘されている。この二重過程思考の測定尺度の一つに,合理性-経験性尺度 (REI, Pacini & Epstein, 1999) があるが,REI については,その後,経験性を,直観性,想像性,情動性の3因子にからなる構造を考える,合理性-経験性マルチモーダル尺度 (REIm, Norris & Epstein, 2011) が作られている。REIm については,現時点では日本語版が作成されておらず,今後のために同尺度の日本語版の作成を行った。REIm の原版42項目のうち,3項目は因子負荷量が低かったが,短縮版の REIm-13 については概ね原著通りの構造が確認されたため,今後の思考研究における重要なツールを提供することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では,フェイクニュースの背景にある認知過程,特に個人の認知特性とニュースの受容との間の関連性を検討した後で,フェイクニュースの最小反直観性,フェイクニュースの伝達可能性の検討を行う予定であった。しかしながら,2020年の年明けとともに生じた新型コロナウィルス感染症とその拡大に伴い,研究計画にも遅延が発生している。一点目としては,同感染症に伴う本務校での業務量の増大に伴い,本研究課題の遂行のために割ける時間が大きく減少したことがその要因として挙げられる。二点目としては,ほとんどの授業が遠隔・非対面化したことにより,実験室実験が不可能になった点も,本研究課題の遂行の障害となった。 特に,フェイクニュースの最小反直観性と,フェイクニュースの伝達可能性の検討においては,実験室実験を用いた方法を採用する予定であったが,新型コロナウィルス感染症の拡大によって,一年以上実験室実験ができない状態が続いているために,これら2つの下位研究課題の検討が実質的に停止している。そのため,目的の4にある,フェイクニュースの受容と伝達に関する認知過程のモデル化も行えていない状態にある。 さらに,研究経費の面からも,当初の計画で予定していた国内外の学会等における研究発表が全てバーチャル化したことに伴い,予算の中で大きな割合を占めていた旅費の支出がほぼ無くなり,予算の執行も十分には進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
現時点において,新型コロナウィルス感染症は,その収束が見通せる状態にないことから,個別に実験室で行われる認知実験を前提とした研究を当初計画の通りに行うことは難しい。以上を踏まえ,フェイクニュースの伝達可能性については,オンライン実験でも実施可能な課題を工夫することで,研究を継続することを目指す。 一方,遅延期間を挟んだ前後での記憶を再生法によって測定することを予定していたフェイクニュースの最小反直観性の問題については,課題の性質上,オンラインでの実行が難しい。これは,実験課題そのものの問題というより,同一の参加者に対して一定以上の遅延期間をおいた複数回の実験参加を要請する仕組みが安価に利用できないことに起因する。当初予定していたクラウドソーシングを用いたオンライン研究では,遅延期間を挟む複数の実験・調査に同じ参加者を参加させることは不可能ではないものの,確実性に欠けるという問題があり,遅延を挟んだ複数回の参加を確実に達成できるオンラインパネルは利用にかかる費用がどうしても高額になるため,本研究課題の予算では賄えない可能性がある。このことを踏まえて,最小反直観性の検討については,コロナウィルス感染症の収束を待ってから行うか,実験方法を変更して行うことを検討する。 しかしながら,コロナウィルス感染症に対する対応が長期化した場合は,研究課題の遂行に割ける時間が減る期間がさらに長期化する可能性もあるため,その場合は研究期間の延長も含めた検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた国内外の学会に伴う出張がが全てバーチャル化されたため,旅費の支出がゼロになったことと,新型コロナウィルス感染症拡大に伴い実験室での個別実験が行えず,その謝金の支払いもゼロであったことも影響している。 2021年度も,旅費については使用の目処が立っていないことから,2021年度に投稿を予定している論文のオープンアクセス化にかかる費用として使用することを予定している。
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