研究課題/領域番号 |
19K03195
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研究機関 | 江戸川大学 |
研究代表者 |
西村 律子 江戸川大学, 社会学部, 准教授 (10757727)
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研究分担者 |
平島 太郎 愛知淑徳大学, 心理学部, 講師 (50803110)
浅岡 章一 江戸川大学, 社会学部, 准教授 (80386656)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会関係 / 高次認知機能 / 選択的注意 / 刺激前陰性電位 / 事象関連電位 |
研究実績の概要 |
社会関係(人と人とのつながり)は、個人の高次脳機能や健康を維持・向上させることが長期の疫学研究で示されているが、具体的な心理メカニズムは実証的に明らかでない。本研究では、社会関係が、脅威に対する腹側情動経路の活性化を抑制し、背側実行経路の活動への悪影響を緩衝することで、高次脳機能の機能低下を防ぐというモデルを立て、その妥当性を心理実験により検証する。2019年度は,研究Ⅰ「強い紐帯(親密な他者)」の役割を検討した。具体的には,親密な他者と情動ストループ課題(脅威画像呈示後のストループ課題)を同室で実施する条件と,別室で実施する条件を設定し,情動ストループ課題の行動指標(反応時間と誤答率)と,脅威画像呈示前の刺激前陰性電位を計測した。 行動指標の結果では,課題前半においては,強い紐帯の存在は,一人で課題を遂行するときに比べ,1.画像呈示後のストループ干渉量を減少させる,2.誤答率を増加させることが示された。この結果は,強い紐帯の存在が選択的注意機能(課題とは関連の無い刺激を効率的に無視する機能)を向上させたとも考えられるが,画像の種類(脅威画像と中性画像)の主効果は認められなかったため,脅威場面での選択的注意機能向上ということは結論付けられない。引き続き,紐帯の程度ごとによる再分析を実施予定である。脳波については解析中であるが,課題前半において,脅威画像呈示前の刺激前陰性電位が中性画像呈示前よりも増大していることは確認されている。 ここまでの解析結果からは,強い紐帯の存在が,脅威場面の有無にかかわらず選択的注意機能向上の役割を果たすようにもみえるが,脅威画像の慣れの問題や反応時間と誤答率のトレードオフを慎重に考慮し解釈していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り進捗しており,開始1年度目にしてデータ採取が終わっていることは順調な進捗といってよい。ただし,研究Ⅰで使用した脅威画像が参加者に対して脅威の程度があまり高くなかった可能性,また,画像種類の少なさから慣れが生じていた可能性が考えられたため,画像選定作業を実施する必要がある。 さらに,新型コロナウィルス感染拡大により,参加者と対面状況でのデータ採取が長期的に不可能になる可能性があるため,今後の進捗は大幅に遅れることが予測される。したがって,現在Web上でのデータ採取も含め,このような状況でも研究を継続できるよう研究計画を再考している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では,研究Ⅱとして「弱い紐帯(関係の弱い他者)」であっても、高次脳機能の機能低下を防ぐ効果をもつ最小条件を明らかにすることを目的とした実験を実施予定であったが,上述した通り,新型コロナウィルス蔓延の状況から,参加者と対面状況でのデータ採取が現状不可能である状況が続いている。このことから,少なくとも2020年度については,研究の方針を,Web上でのデータ採取を中心とした実験計画に大幅変更する必要があり,現在検討中である。検討中の計画案の方針としては,大きく以下の2つである。1.新型コロナウィルス蔓延の状況下こそ「脅威場面」であると捉え,すでに確立されている新型コロナウィルスに関する不安尺度や,現在の人との接触頻度やコミュニケーションの状況などをWeb上で調査し,それらの関連,かつWeb上で実施する認知課題の成績との関連を検討する。2.オンラインミーティングシステムを活用し,初対面の参加者同士(紐帯なし)がオンライン上でコミュニケーションをとることがその後の認知機能に及ぼす影響を検討する。研究案1は,現在の状況こそ,本研究の目的を検討する意義に見合っており,このような脅威場面でこそ他者の存在が精神衛生および高次認知機能維持に重要な役割を持つことを示唆することができる意味からも,社会的意義が大きいと考える。また研究案2は,我々も将来的には検討したいと考えていた,Web上でのコミュニケーションが高次認知機能に与える影響を検討することができる。研究責任者と研究分担者が所属する大学の学生に参加協力を依頼することで,完全な初対面の参加者ペアによって研究することも可能である。第2案もまた,他者との対面でのコミュニケーションが大幅に制限される中,Web上でのコミュニケーションが果たす役割を検討することができる点からも社会的意義が大きいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の研究においてデータ取得された参加者数が予定よりも少なかったため,謝金および実験補助費に関して次年度使用額が生じた。 したがって,次年度使用額については,当初の予定通り,次年度実施される研究における謝金および実験補助費として利用する計画である。
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