研究実績の概要 |
外国人労働者の日本の受け入れ体制を探るためには、職場や職場外の生活における主観的ウェルビーイング(subjective well-being, SWB)、つまり生活の満足度と個々人の意味づけを検討する必要がある。本研究では、在英フィリピン人看護師、在日フィリピン人看護師・介護福祉士の事例をもとに検討を行った。 英国でのフィリピン人のSWBは、滞在初期には英語が話せても「英国」英語を話せないストレス、看護手順の違いに苦労があった。しかし給与や、勤務時間、医者と対等に議論できる看護職の専門性やキャリア発展可能性に、仕事でのSWBを高めていた。フィリピン人が看護師長になっている英国に比べ、日本では慢性期病棟で高齢者のケアに従事する者が多く、キャリア展望がみえない。看護師としてのスキルを活かし自身のキャリア構築を考えていく仕組みが必要である。 SWBを低める要因には、英国では患者からの人種差別的態度、同僚からの曖昧な差別の扱いがあった。職場では、労働者人種平等基準で人種や性別など属性による差別が禁じられ、違反行為への報告・訴訟制度が整備されてきた。フィリピン人看護師も職場経験を積むことで差別行為に、専門家としてどう対処するかの様々な術を身に着けていた。同僚だけでなく、患者からの差別やハラスメントの受け止め方と対処、それを守る法整備は、日本の外国人労働者を受け入れる職場に求められる。 移動前の経験が、移動後の異なる社会でのSWBにどう影響を与えているかを理解することが重要である。母国では、看護師は「知的で特権的な」表象があり自身のプライドになる。フィリピン人が重視する価値観は家族へのサポートである。そのような価値観がSWBの根幹にあり、彼らの移動先社会との相互作用により自身を再編させていることがわかった。
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