本研究課題は,理由のブレンドが社会的判断に与える効果について検討することを目的とした。単独では判断や決定を促す理由であっても,それらが複数利用できる条件下では「理由のブレンド」が起こり,決定を後押しする力を全体として弱める可能性があることを検証した。 2021年度は,「強さの異なる理由のブレンド」に関する実証研究を進めた。実験としては,架空のプリペイドカードを複数設定し,それらに対する支払い意志額を回答者にたずねるWEBアンケート調査を実施した。このプリペイドカードは,利用可能なカフェによって,いくつかの条件に分けられた。大きくは,1)情動喚起度の高いカフェブランドで利用できるカード(情動高喚起条件;スターバックスなど),2)情動喚起度の低いカフェブランドで利用できるカード(情動低喚起条件;エクセルシオールカフェなど),3)情動的喚起度の高いカフェでも低いカフェでも利用できるカード(ブレンド条件)の3条件が設定された。 「利便性」の観点から言えば,より多くの店での利用が可能なブレンド条件のカードが,最も高い評価を受けるはずである。すなわち,スターバックスでの利用に最も価値を感じる参加者であっても,そのスターバックスの利用が含まれるブレンド条件のカードは,スターバックス単独の情動高喚起条件のカードへの評価を下回らないはずである。 しかし,実験の結果,参加者の支払い意志額は,情動高喚起度条件>ブレンド条件>情動低喚起度条件となる傾向が確認された。このことは,複数要素が含まれる対象の価値を個人が判断するとき,要素の包含関係は無視され,構成要素の価値が平均化されやすい(ブレンドされやすい)ことをあらわしている。情動喚起度の強い対象は単独で十分な訴求力があるが,情動喚起度の低い対象と組み合わされることで,全体としての訴求力は平準化し,意思決定が損なわれることになると言える。
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