研究課題/領域番号 |
19K03214
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
八木 善彦 立正大学, 心理学部, 教授 (80375485)
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研究分担者 |
井上 和哉 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (50631967)
笠置 遊 立正大学, 心理学部, 准教授 (30632616)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 真実性効果 / 流暢性 / 広告 |
研究実績の概要 |
人は同じ文を繰り返し読むと,次第にその内容を真実と評定するようになる(真実性効果)。この現象は,文の内容やその客観的な真偽とは無関係に生じることから,政治やマーケティングなど,幅広い分野から注目を集めてきた。しかしながら,現実場面において,人に同一の文を繰り返し能動的に読むよう求めることは困難である場合が多く,真実性効果を現実場面に応用するために解決しなければならない課題となっていた。そこで本研究では,1)実験協力者に文を繰り返し能動的に読むことを求めずとも真実性効果を生じさせる実験パラダイムを開発し,2)真実性効果を現実場面に応用可能とするための基礎的知見を蓄積することを目的とした。 2年目の代表的成果は,絵画的真実性効果の生起の確認と,頑健性に関する基礎的データを収集したことにある。実験においては,対象Aと対象Bの優劣関係を絵画的に表した画像(例えば,アメリカ国旗が中国国旗よりも大きいことを表す不等号を両国旗の中間に配置した画像)を繰り返し提示した後,トリビア文に対する真実性評定を求めた。トリビア文は先行提示した絵画情報と適合的(例えば,「アメリカは中国よりも温泉の数が多い」),不適合的(例えば,「アメリカは中国よりも温泉の数が少ない」),あるいは,評定段階で初めて提示される新奇文(例えば,「ブラジルはアルゼンチンよりも湖が多い」)であった。実験1においては,絵画の提示時間と提示回数が操作され(200ms を10回,または,2sを1回),いずれの場合においても,適合文の真実性評定は,不適合文や新奇文よりも有意に高くなることが明らかとなった。実験2では,提示時間を200msに固定し,反復接触回数を1,2または3回で操作したところ,いずれの接触回数においても,適合文は新奇文よりも,新奇文は不適合文よりも有意に真実であると評定されることが明らかとされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症拡大に伴い,本年度は対面での心理実験を行うことが困難となった。このため,我々は本年度当初から,1)オンライン実験のスキーマ構築,2)現象に関する既存の説明モデルに関するレビュー執筆,の2点に新たに着手した。これら予定外の作業の発生により,実証研究の進捗に関しては大幅な遅れが生じた。 オンライン実験は,国内クラウドソーシングサービス(Crowd Works社)とオンライン実験制御サービス(Pavlovia.org)を組み合わせることによって構築した。9月には,国内でオンライン心理実験のスキーマ構築と運用に関する実績を持つ研究者を講師として招聘した研究会を実施し,オンライン実験実施時の注意点やノウハウについて情報交換を行った。本研究におけるオンライン実験スキーマは2020年10月には完成し,年度内に述べ2000人以上を対象としたオンライン実験を行った。 レビュー論文においては,真実性効果と関連現象(e.g., 単純接触効果,誤有名性効果)を統一的に説明可能とする理論(流暢性理論)に基づく説明モデル8種類について紹介し,これらのモデルと,200以上の実証研究から得られた知見の整合性を検討し,モデルの妥当性に関する議論を行った(現在投稿準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルス感染症拡大状況によっては,今後もオンライン実験を継続する必要がある。オンライン実験における一つの問題は,実験協力者が実際に実験を行っている状況を,実験者が観察できない点にある。このため,主観的な評定を求める本研究の実験課題においては,参加者が誠実に課題に取り組んでいたかどうか判断することが困難となる場合もある。本年度は,こうした問題の解決方法を模索しながら,オンライン実験の継続によってデータを収集する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大に伴い,本年度予定していた英国Birmingham大学での客員研究員受け入れが中止された。このことにより,執行を予定した英国からの出張旅費等の支出が生じず,多額の次年度使用額が発生した。
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