研究課題/領域番号 |
19K03215
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
膳場 百合子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00548886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | AI / 因果認知 / 責任判断 / 主体性認知 / 感情認知 / 責任能力 |
研究実績の概要 |
本研究は、人工知能(以下AI)が引き起こした被害に対し、一般の人々が誰にどれだけ責任があると考え、どのような責任処理(問題の解決)を望ましいと考えるか、特に日本人の判断にどのような特徴があるかを検討するものである。5年間の研究期間を通じて3つの日米比較調査を計画しており、①「AIのとらえ方」の文化差の検討、②「AIが関与した問題に対して誰をどのような根拠で人々が非難するか」の文化差の検討、③「AIが引き起こした問題に対し人々がどのような処理を望むか」の文化差の検討を行う計画である。2020年度は①の日米比較インターネット調査を行った。
【調査①の知見】日米の回答者に、AIをどの程度主体的で、論理的で、感情や直感を持ち、道徳的判断能力(責任能力)を持ち、義務を備えた存在ととらえているか、および、AIが人に被害をもたらさぬようコントロールする責任や、AIが被害をもたらした場合の責任の負担を誰が負うべきかを尋ねた。文化差としては、人間に対する責任判断を調べた先行研究の知見と一貫し、AIへの判断の場合も、アメリカ人に比べ、日本人は直接行為者(=AI)の責任を強調しない傾向が見られた。ただし、今回は多くの文化共通性も見られた。いずれの文化の人々も、「人間や組織」に比べ「AI」の能力を低くとらえており、AIの「論理性」だけは高く評価しているものの、その他の点(主体性、感情・感覚経験能力、責任能力)は全て人間より低く評価していた。また、日米とも、AIそのものよりは、使用者や製造者が諸々の責任負担をすべき、と判断していた。
【意義・重要性】AI観や、AIがもたらした結果の負担に関する判断の文化差や文化共通性はこれまで明らかになっていなかった。今回の研究では、人間に対する責任判断の文化差に通じる文化差がAIに対しても確認されると同時に、多くの文化共通性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では2019年度に1つ目の調査を実施する計画であったが、2019年度は予備調査の分析に時間がかかり、1つ目の調査の準備が遅れたため、結果的に、2020年度にこの調査を実施することとなった。また、当初の計画では2020年度は1つ目の調査のデータの分析と学会発表を予定していたが、予定していた学会大会(国際比較文化心理学会大会)が新型コロナの影響で1年延期されたため、予定していた学会発表は2021年に行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
【調査1:AIのとらえ方の文化比較調査】2021年度は2020年度に集めた調査1のデータの分析を行い、それを踏まえて調査2の準備をする予定である。調査2に向けて、予備調査と、調査1の2つのデータセットで一貫して見られる知見を確認するとともに、未分析のエスニックグループ間の比較分析なども行う予定である。
【調査2:AIが関与した問題に対する責任判断(非難の判断)の文化比較調査】予備調査および、調査1のデータから、AIのとらえ方やAIが関与する出来事の責任判断には、文化共通性も多く確認されているので、調査2以降の実査では、文化差と文化共通性の両方に注目して調べていく予定である。文化差については、予備調査と調査1では、「因果推測の文化差」に焦点を当てたが、調査2では、因果推測に加え、「規範の厳しさ」の文化差にも焦点を当てた実験を組む予定である。文化共通性に関しては、AIに対しては人や組織に対する責任判断には見られない特殊なパターン(感情経験能力が知覚されるほど責任が知覚されるというパターン)が日米共通で見られるため、そのメカニズムについても詳しく調べていく予定である。
【調査3】AIが関与した出来事への判断は、文化共通な部分も多そうなので「人々が望む問題処理」の調査でも、文化差だけでなく、普遍的なパターンも十分に焦点をあてて分析していく予定である。
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