研究課題/領域番号 |
19K03222
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
庄司 一子 筑波大学, 人間系, 教授 (40206264)
|
研究分担者 |
幅崎 麻紀子 埼玉大学, 研究機構, 准教授 (00401430)
石隈 利紀 東京成徳大学, 応用心理学部, 教授 (50232278)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 生徒のつながり / 安心感 / 学校予防教育 / ケア / ピア・サポート / 中学生 / ケアシステム / 学校組織のレジリエンス |
研究実績の概要 |
子どもの「安全」「安心」は現在の学校教育において一層重要な課題となっている。本研究は中学校においてピア・サポート(以下PS)を実施し,生徒のつながりの形成,安心感,学校適応感を高める「学校ケアシステム」の構築をめざし,縦断的取組を行い,効果検証を行うものである。 本年度は,①PSの継続的実施による効果の検証,②PSの取組の認識とその成果を生徒,教員,学校管理職へのインタビューにより明らかにすることを目的とした。2019年度末から発生したコロナ禍により,生徒のPS活動,PS研修,学年・学校の取組は制限され,学校との連携した取組も一部制限された。だが,秋以降,学校は独自に各クラスでのPS活動が開始され,これにより(1)安心感,社会的絆に関する調査の実施(中学生874名。過去3年分),(2)教師14名に対するPSとその成果に関する半構造化面接,が可能となった。 得られたデータから(1)生徒の安心感,社会的絆の縦断的変化の検討,(2)教師に対するインタビューの質的検討を行った。その結果(1)①2018年~2020年に実施された安心感と社会的絆の年度毎平均を算出し比較した。生徒全体では3年間の得点に有意な上昇は示されなかったが,3年間の縦断的データ(24名)の変化を検討したところ,3年前の下位尺度得点低群において安心感の「幸福・やすらぎ」「平穏」,社会的絆の「教師・友人への愛着」「ビリーフ」に有意な得点の上昇が示された。(2)教師への面接調査から,教師のPS活動に対する気づきの変容,指導行動の変容と教育実践における変容と般化,が確認された。 以上からPS実践による適応低群の生徒への効果,教師自身のPS活動の認識と指導行動における変容が示された。PSによるケアシステム構築には,学校全体の継続的取組と管理職の理解,教師が効果を実感できる取組の継続の必要性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度はコロナ感染症発生により学校が休校となり,2019年3月に予定していたフォーラムの開催が不可能となり,年度の最終まとめができなかった。さらに6月下旬まで休校が続いたことから春と秋の年8回の生徒の研修,学校全体の取組が不可能となった。だが,学校は秋以降,生徒指導主任を中心としてこれまでの実践を踏まえた,生徒主体の各クラスでのピアサポートの取組を実施し,活動内容をさらに発展させた。 コロナの影響は免れず,年度当初からの取組が遅れたとは言え,ピアサポート活動が継続されたことにより,生徒を中心とした学校全体でのピアサポートは積極的に進められ,さらに発展し,生徒の主体性は一層高まり,人間関係は安定し,生徒間の安心したつながりが形成されると共に学級,学校全体が非常に落ち着いたものとなって行った。クラスが変わりたくないという生徒も少なからずいた。 コロナの影響により活動の停滞が懸念されたが,結果的に逆に学校の主体性が高まり,予想外の効果がもたらされた。この背景には,これまでの長年の継続した学校全体での取組があったこと,生徒への研修を通して生徒がピアサポート活動の真の目的を理解し,学級での活動,異学年交流の中での活動の展開を進めたこと,さらに,これまでの継続した取組が生徒のレジリエンスを高め,コロナによるストレスのネガティブな影響を予防できた,すなわち学校予防教育による「学校組織としてのレジリエンス」が促進されたのではないかと考えられた。 さらに,本取組は生徒を中心としたピアサポート活動であるが,指導する教師も生徒の活動を支える存在として生徒の影響を受けており,教師のピアサポートに対するとらえ方,生徒との関わり方・接し方にも変化が見られたことが示された。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は,本研究の最終年度としてこれまでの取組の縦断的効果の検証を進める。また生徒のつながりを形成することによる安心感の変化,生徒の学校適応感,学級風土の変化を縦断的に検証する。さらに,生徒のピアサポート活動を支える学校ケアシステムの構築がどのように進んでいくかについて,生徒,教師へのインタビューを通して質的に明らかにする。 また,令和2年度にはコロナ感染により学校が休校になり,学校組織が主体的にPS活動を展開したことから,予測していなかった(予測以上の)効果が見いだされた。令和3年度(2021年度)は,令和元年3月に開催できなかったフォーラムを開催し,「学校におけるピアサポートシステム構築」について,システム構築に必要な要因を検討すると共に,学校関係者,過年度卒業生などの意見を集約し,生徒主体で,教員,学校,外部支援者が関わって創りあげる「学校ピアサポートシステム」構築の要因とその効果,について研究成果をまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの発生により,研究代表は海外での学会発表が出来なくなった。また,研究分担者が行う予定であった学会での研究発表の一部も実現できなかった。これについて次年度(令和3年,2021年度)に実施することになり,その経費に充てる予定となっている。
|