マルチベースラインデザインにおいてデータから予測分布を推定する際に系列相関を無視することで標本サイズの推定にどの程度大きな影響が生じるのか調べた。Schutte,Malouf,& Brown(2008)の Schutte データセットでは、一次の自己回帰過程を設定すると自己相関係数は .86 程度とかなり大きな値となっている。これを無視した予測分布から新規なデータにおいて達成される効果量、信頼区間、検定力を検証すると、効果量で 0.1 程度の過大評価、信頼区間幅で 0.5 程度の過小評価、検定力で 0.2 程度の過大評価となっていた。このことは、ハイブリッドベイズ型の標本サイズ決定法をマルチベースラインデザインに適用する際、誤差分散共分散行列の設定によって結果の頑健性がかなり損なわれる(このケースの場合には実際に必要となる値よりも小さい標本サイズが提案されてしまう)可能性があるということを示唆している。一般にパイロットスタディによって得られるデータは必ずしも規模が大きくなく、予測分布推定に用いるモデルの正しさを正確に見積もることは困難である。また、そもそも高次の自己相関など複雑な仮定をおいたとしても予測分布自体が推定できないケースも発生すると考えられる。この点において、母集団値を所与とする従来の方法と比べて、ハイブリッドベイズ型の方法がどの程度メリット・デメリットをもたらすのか、シミュレーションにより系統的に検証する必要がある。
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