研究課題/領域番号 |
19K03228
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
若松 養亮 滋賀大学, 教育学部, 教授 (50273389)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大学生 / 職業選択 / 進路意思決定 / 教職 / 勤労観 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまで評定が高止まりしてうまくいっていなかった尺度構成の打開策として、「最も想定している進路における選択理由」を、若松(2019)における自由記述をもとに構成し(以下、理由尺度と呼称)、関連をみる尺度・質問とともに調査用紙を作成した。実施は2022年2月4日~28日であり、対象は教員養成学部の3・4年次生で、294名であった。 理由尺度の評定はこれまでのように高止まりはせず、因子分析結果も因子的妥当性を裏づけるものであった。教職を進路の選択肢として考えるか否かには因子5(プライベートの重視)が大きく関わっており、それを重視する人は教職を選択しない。もうひとつ仕事の内容と関わらない因子5(身分の安定)はどちらの人においても中程度重視されていた。仕事内容に関わる理由のなかでは因子1(自身の悦楽)が評定平均も頭抜けて高く、意思決定の進行状況、想定した進路の志望の強さと明瞭さなどと強く関連しており、「楽しく働く」の中核にある内容と見られた。しかし、教育実習前から3年次末にかけての教職志望度の変化に対してこの因子は寄与せず、そこに最も関わったのが因子3(他者との協働)であった。因子1が教師という職業にそもそも見出す「楽しさ」であるのに対して、因子3は教育実習を経て重視されたものと言える。他方、因子2(力量の発揮)は意思決定の進行状況と負の関連、想定した進路への志望の強さとも負の関連、さらには教育実習を経ての志望の変化にも負の寄与と、意思決定にブレーキをかける理由になっている。教職志望度の4群では「ぜひ目指したい」の群だけが平均を上回っていたことから、確信度が強く教師を志望する人には推進する方向で寄与する理由であると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前項で述べたように、大学卒業後の職業を選ぶ理由の尺度化は、その分布のばらつき方、評定平均の水準、他の尺度との関連のあり方、その解釈可能性などの結果から、成功したということができる。大学生にとって職業選択の鍵になる「楽しく働く」ことの含意に近いものを量的にとらえられたと思われる。また前項に述べた他の変数との関連から、教員養成学部生に限られての知見であるが、職業意思決定の様相とリンクしていることも明らかになった。このリンクがそれなりの強さの関連であったことから、新たに開発された理由尺度は一定のリリバンスをもっているとも考えられる。 ただし量的な尺度は、複数の項目をまとめて因子を構成し、安定した測定を行おうとするものであるために、項目個々のもつニュアンスの違いまでを得点化するには至らない。本研究の出発点となった事例を、量的尺度で得られた得点で表現し、最終的な知見としていくには、質的な検討が必要と考えている。 また理由尺度は自由記述データをもとに新たにつくられた尺度ではあるが、従来からある類似の尺度との相違を理論的・実証的に位置づけ、その特色を明らかにする作業がまだである。コロナウィルス感染症蔓延のため、延期された教育実習の終了を待って年度末に実施された調査であったため、その作業も次年度に行っていく。 ところで本年度のデータで、理由尺度のほとんどの項目に低い評定の人が散見された。これまでの調査では「楽しく働きたいか」という質問に6段階評定で4以上の評定の人が100%であったことから、人は基本的に楽しく働きたいと考えてきた。しかしほとんどの項目でなされた低い評定が真値なら、彼らは職業選択にさして重視する理由をもっていないことになり、「人は、楽しく働きたい」という前提が成り立たないことになる。果たして本当にそうであるか、あるいは測定上の問題があるかなど、究明は今後の課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
理由尺度については、次の二点において点検し、また必要な改良を施していく。ひとつは、この尺度における評定や因子ごとの得点が、実際の職業意思決定においてどのように考慮され、またその細かなニュアンスがどのようなものであるかを事例的に捉えていくことである。そのために10~15人程度の4年次生に面接調査を行い、事例的に明らかにしていく。もうひとつは、これまでの類似の尺度を作成・利用している先行研究を改めて点検し、その知見を事例から得られたことと併せて検討し、本尺度の特徴を明確化するとともに、内容的妥当性の検討を行う。 そのうえで改訂された理由尺度を中心とした量的調査を企画し、学内の研究倫理審査委員会を通したうえで、以下の目的で再調査を行う。(1)改めて因子分析を行い、改訂前の尺度との因子構造の相違、改訂後の尺度の因子的妥当性の検討を行う。(2)改訂後の尺度から得られた下位尺度得点を用いて、昨年度の同様に、意思決定の諸側面を捉えた尺度との関連を分析する。(3)異なる学年にも調査を実施し、結果を比較することで、横断的にではあるが、学年進行や教育実習などの実地経験の前後での変化を明らかにする、(4)教員養成学部でない一般の学部にも調査を依頼し、結果を比較するとともに、得られた知見の一般化可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
中心となる「楽しく働くことの含意」を測定する尺度が前年度までに十分なものが作れておらず、さらには今年度の調査実施がコロナウイルス感染症蔓延のため教育実習が延期されたことから当初の予定時期に実施できなかったため。また国内学会がオンライン開催となり、十分な情報収集や研究発表ができないことも理由である。1年延長の措置をいただいた次年度は、研究を急ピッチで進めるとともに、研究会も含めて成果発表の場を確保し、研究計画の完遂を目指す。
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