研究実績の概要 |
共感性は,人間においても他の動物種においても向社会行動の基盤である。向社会的な人間は,ストレス経験が少なく,寿命が長いという報告もあるため,向社会行動への誘因たる共感性の発達基盤について実証的な検証を行うことは社会的な意義が大きい。共感性は,人間の適応行動に欠かすことのできないヒューマン・キャピタルのひとつでありながら,幼児期・児童期における共感性の構造と結果変数に対する予測的妥当性については未解明の部分が多い。そこで,本研究課題では,幼児期・児童期の共感性の構造と発達の動態を明らかにしながら,それらが社会的な適応と不適応にどのように影響を与えるのかを双生児法を用いた行動遺伝学解析による検証を行っていくものである。2019年度(平成31年度および令和元年度)においては,ウェブを用いて取得した調査データおよび研究代表者の在外研究先であった英国・ロンドンの所有する公開データに基づいた分析を進め,それらの成果報告を国際論文誌2編(Takahashi, Pingault, et al., in press, Takahashi, Pease, et al., in press),国際学会発表3件,国内学会発表3件において行った。たとえば,そのうちのTakahashi, Pease, et al., (in press)においては,共感性のダークサイドと考えられる冷淡さ・無感情性の遺伝・環境構造について発達的な観点から分析を行い,共感性のダークサイドのベースライン(切片)には遺伝の影響が多分に関与するものの,その発達の様相(傾き)には環境の影響が相対的に大きく,またそれら切片と傾きの間の遺伝相関は低いことを明らかにした。このことは,共感性(とその裏返し)には年齢層に特有な遺伝・環境要因が関与しており,介入やサポートもその当該年齢層に即した方法が求められるすることを示唆するものである。
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