教科の学習において,知識が教えられても実際の課題解決に失敗することがしばしばみられる。本研究は,その要因として提示教材の具体的情報およびそれに関する学習者の認識の問題を想定し,課題解決を促すための教授学習条件について検討するものである。 2022年度は,学習心理学で扱う「条件づけ」の判断課題(舛田,2021)をとりあげて検討した。それは,コイのオペラント行動(手叩き音にコイが近寄る行動)について,レスポンデント条件づけとオペラント条件づけのうちどちらによる行動形成かをたずねる問題(コイ課題)である。先行研究では,コイ課題に対して「レスポンデント条件づけ」と判断する大学生が少なくなく,それらがパブロフの犬の学習経験から「音とエサの対呈示」という状況の表面的類似性に着目しているために生じることが示されている。これは,事例のもつ具体的情報の類似性が,条件づけに関する知識の使用を阻害するために生じると想定された。そこで,条件づけの学習において,状況の類似性だけではどちらの条件づけか一義的に決まらない事例(あいまい事例)を用いた教授活動をおこない,それがコイ課題の解決を促進するかを検討した。その結果,期待された教授効果はみられず,むしろアクセスしやすい表面的な刺激情報に着目した課題解決がなされていたことが明らかとなった。 コイ課題の解決の難しさは,「なぜその行動をしてしまうようになったのか」という行為の主体者としての視点を取りがちな点にある。そこで,後続の研究では,条件づけの学習において行動の制御者としての視点を強調することが,コイ課題の解決を促進するかどうかを検討した。その結果,コイ課題の正答率が前研究よりも上昇し,さらに行動形成のメカニズムについても適切な説明が増加したことが明らかとなった。課題解決を促すには,知識学習において視点の変換を教授することが有効となることが示唆された。
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