研究課題/領域番号 |
19K03242
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研究機関 | 東京未来大学 |
研究代表者 |
横地 早和子 東京未来大学, こども心理学部, 准教授 (60534097)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 創造性 / 芸術創作 / 創造的認知 / 熟達 / 探索 / 省察 |
研究実績の概要 |
本研究は,芸術家の創造的な熟達過程の一端をとらえようとするものである。熟達すると創造性が阻害される等、両者の両立は難しいと考えられてきた。しかし,芸術家が継続的に創作活動を行う際に用いると考えられる「芸術創作プロセスのずらし」(岡田ら、2007)と,創作活動の経験等を振り返り捉え直す「省察」が,創造的な熟達過程において重要な役割を担うことが明らかになりつつある。ずらしは,いわゆる発想法とは異なり,既存の知識やこれまでの経験を踏まえて新しいことを考える等,多くの場面で人間が用いている通常の認知操作である。本研究は心理実験を用いて,ずらしと省察の関わりについて仮説検証を行うものである。 2019年度は,「芸術創作プロセスのずらし」と,創作活動の経験や知識を構造化する「創造活動に対する具体的な省察」の関係から,創造的な熟達過程を解明することを目指し,予備実験等を考案するための最初の年であった。まずは芸術的創造活動において顕著に見られる省察の具体的な内容を検討するために,未分析であったデータの分析を試み,その結果を学会にて発表した。その結果,省察に加えて探索(Boden, 2010)も頻繁に行われていることが明らかとなってきた。また,実験計画においては,ずらしのタイプ毎に促される省察の特徴を検証が可能となる課題や実施方法の検討を行ったが,短期的な探索活動の特徴を捉えるための実験を再検討する必要があることや,その評価をどのように行うのかといった課題を引き続き検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は,「芸術創作プロセスのずらし」と,創作活動の経験や知識を構造化する「創造活動に対する具体的な省察」の関係から,創造的な熟達過程を解明することを目指し,予備実験等を考案するための最初の年であった。 まずは芸術的創造活動において顕著に見られる省察の具体的な内容を検討するために,未分析であったデータの分析を試み,その結果を学会にて発表した。分析結果からは,省察に加えて探索(Boden, 2010)も頻繁に行われていることが明らかとなってきた。具体的には,①表現方法に関するもの,②創作態度に関するもの,③芸術・社会に関するものが抽出され,特に若手美術家の中長期的な創作活動において顕著であった。ただし,実験の場合,短期的な創作活動とならざるを得ないため,上記の以外の探索や省察が行われることも想定した実験計画の立案が必要である事も見えてきた。そのため,成果物(パフォーマンス)を適切に評価する方法の開発には到っておらず,今後の取組課題である。 なお,2020年1月頃から世界的な感染拡大をみせている新型コロナウィルスの影響により,予定していた予備実験等の実施を実質的に取りやめざるを得ない状況となった。さらに,今後は対面での実験実施ではなく,遠隔でも実施が可能な実験等の準備を整える必要があり,大幅に計画を変更せざるを得ない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ずらしと省察,そして探索にも着目して創造的な熟達過程について検証する。また,前述の通り,新型コロナウィルス対策も考慮し,遠隔でも実施が可能であるともに,美術家の通常の創作環境をできるだけ損なうことのない実験の立案を目指すこととする。なお,実験のような短期的な創作活動においては,高木ら(2013)が示すように,自分自身の身体的な感覚や感情といった「知覚・感情の次元」に目を向けやすくなる可能性が考えられる。どのようなレベルの探索・省察がどのタイミングで生じるのかや,どのような課題や介入によって探索・省察が変化するのかといった側面にも着目し,実験課題・計画の準備を進めていきたい。 また,成果物(パフォーマンス)を適切に評価する方法の開発を行う。成果物の評価は,従来の創造性の評価基準(新規性と有用性)ではなく,ずらしによってもたらされるテ ーマ等の連続性や熟慮性,展開の意外性や重層性等を考慮すべきである。加えて,上記のような「自己の知覚・感情の気づき」を評価の際の参照事項として加えることが可能であるのかなどについても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
78円の残額は、少額過ぎて消化することは不可能であったため、翌年度に繰り入れて利用する。
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