研究実績の概要 |
本課題の2年目である2020年度も、(1)実験、(2)学会発表、(3)研究成果の論文発表を行った。 (1)実験:顔と名前の対連合を促進する方法の実験に続いて、学習反復の分散効果の文脈依存性を、ビデオ文脈を用いて調べた。これまでにも、複合場所文脈を用いて同様の現象を調べている。その際、同文脈条件では分散効果が生じるが、異文脈条件では消失した(漁田・森井,1986)。今回のビデオ文脈でも、同様の効果を得ることができた。コロナ禍のため、オンライン授業を通じての実験参加者集めに苦慮したが、何とか完了することができた。この研究成果は、2021年9月の日本心理学会(明星大学)で発表する予定である。 (2)学会発表:顔と名前の対連合学習促進法を、9月に日本心理学会(東洋大学Web)で発表した。 (3)論文発表:2020年8月に、Isarida, T., Isarida, T. K., Kubota, T., Nakajima, S., Yagi, K., Yamamoto, A, & Higuma, M. (2020). Video context-dependent effects in recognition memory, Journal of Memory and Language, 113, 104 - 113.を刊行した。 さらに、これまでの対連合学習の促進方法の研究成果をまとめ、"Facilitation effect of incidental environmental context on the computer screen for paired-associate learning" として、Quarterly Journal of Experimental Psychology に投稿した。審査を経て、2021年に刊行される予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) 予定していた実験を完了させ、結果もほぼ予想どおりに得ることができた。この成果を、2021年度の学会に発表できる。ここまでは想定通りである。 (2) 関連する研究成果が、Journal of Memory and Language(JML)に採択され,掲載されたことは予想外の大きな研究成果といえる。JMLは,5年間のImpact Factor が5.763と非常に高く、この領域で世界最高峰である。アメリカ心理学会(American Psychological Association, APA)で対応する雑誌Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition (JEP: LMC)(この雑誌も非常に高く評価されている)でも5年間のImpact Factor が3.258である。日本人でこれに掲載された論文(前身のJournal of Verbal learning and Verbal Behavior)を1編しか知らない。さらに、本研究のまとめとなる論文も、Quarterly Journal of Experimental Psychology(IFが2.5程度)に投稿し、採択されそうな状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度も、引き続き実験を行う。これまで、対連合学習に焦点を絞って実験を行ってきたが、2021年度は,学習の促進法にビデオ文脈がどのように貢献するかを調べる。2020度に、反復の分散学習をビデオ文脈が促進することを見いだした。これは、リスト学習全体を通して提示される長いビデオ文脈が、複合場所文脈と同様の機能を有することを示している。複合場所文脈はエピソード定義文脈として機能することを、数多くの実験を通して確認し、世界トップの国際誌に発表し続けてきた(Isarida, 2005; Isarida & Isarida, 2004, 2006, 2010; Isarida, Isarida, & Sakai, 2012)。けれども、国際的に見れば、複合場所文脈よりもコンピュータ画面の文脈ばかりが取り上げられてきたといえる(Murnane, Phelps, & Malmberg, 1999; Smith, 2013)。この点において、複合場所文脈と同様の機能を有するビデオ文脈を用いれば、より受け入れられやすい成果発表ができると予想できる。2020年度は、反復の分散効果の文脈依存性を調べたが、2021年度は、より一般的な学習時間効果を調べる。 学習時間効果の文脈依存現象は、複合場所文脈を用いて解明してきた。Isarida (2005) は以下を見いだした。(1) 学習時の複合場所文脈がテスト時に復元されると、復元されない場合よりも、大きな学習時間効果が生じた。(2) テスト時に項目間連合が利用できると、文脈が復元できなくても学習時間効果が生じた。(3) 項目間連合が利用できないときは、学習時間効果が消失した。この結果は、意図学習と偶発学習を含む複数の実験で確認した。2021年度は、この発見が、ビデオ文脈でも生じるか否かを検証する。
|