研究課題/領域番号 |
19K03244
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
木村 美奈子 名城大学, その他部局等, 准教授 (50457917)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自己認知 / 映像理解 / 外的表象 / シンボル / 幼児期 / 表象機能の発達 |
研究実績の概要 |
スマートフォンなどのタブレット端末が国内に普及して久しい。子育て世代は、身近なスマートフォンのカメラ機能を利用し、夥しい量の子どもの成長の記録写真を撮影し、端末内に保存している。したがって、最近の幼児は、誕生直後の自らの姿から、今、現在の自己像まで、日常的かつ頻繁に目にしていると考えられる。では、そのような子どもたちの自己認識はどのようなものだろうか。これまでの自己認知の発達研究では、鏡やビデオ映像を用いた課題によって、鏡では2歳ごろに、またビデオ映像では4歳ごろに、自己認知が成立すると考えられてきた。一方、映像そのものの理解を調べた研究では、課題によって結果が異なり、一貫した結論は得られていない。例えば、申請者らが行った映像理解の研究では、5歳になっても、人や物の映像を実物と異なるものとして完全には理解していないことがわかっている。そこで本研究では、自己認知と映像理解の二つの領域を接合し、従来の自己認知研究の枠を越えた、自己映像に関する幼児の理解の発達的変化を検討することとした。 しかし、本研究は、幼児を対象にした実験的な研究であるため、2020年からの新型コロナの感染拡大によって大きな影響を受けた。すなわち、実験を実施できる幼稚園や保育園が皆無であったため、予定していた研究を進めることができなかった。したがって、2022年度の研究実績としては、新型コロナの感染以前に行った予備的な実験の結果についてまとめた、「自己ビデオ映像が『私の表象』であることを幼児はどこまで理解しているか」と題した発表を、日本発達心理学会第34回大会にて行ったこと、また、イギリスのイーストアングリア大学より、マーチン・ドハティ氏を招聘し、研究交流を実施したことが挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年次である2019年度は、理論的基盤を構築するために、先行研究を渉猟し、文献レビューを行った。特に映像理解に関しては、「表象機能の発達―図像的表象の理解を中心に」と題したレビュー論文にまとめ、『児童心理学の進歩』Vol.59に掲載された。また、映像の中でも子どもの写真の理解を扱った実験的研究をまとめ、翌年の『発達心理学研究』第32巻に掲載された。2020年度は、ICP(国際心理学会)で研究発表を行う予定であったが、新型コロナの感染拡大のため、次年度に延期された。日本での発表については、日本発達心理学会第32回大会において、テレビ映像の理解を扱った「子どもはテレビから何を得るのか」と題した発表と、外的表象一般の理解に関する「外的表象理解の発達における連続性と非連続性」と題した発表を行った。2021年度は、延期されていたICP(国際心理学会オンライン開催)にて、自己像の理解につながる人形の理解に関する研究発表を行った。日本発達心理学会第33回大会では、写真映像の理解に関する「幼児期の写真の属性実在論をめぐる1実験的証拠」と題した研究発表を行った。この年は本課題の最終年次であったが、新型コロナの感染状況が収束していないため、計画していた対面による実験、およびその成果の発表を行うことができず、研究期間の延長を申請した。2022年度は、新型コロナの感染拡大以前に行った、本課題の元になっている予備的な実験の結果についてまとめ、日本発達心理学会第34回大会にて発表を行った。また、イギリスのイーストアングリア大学より、マーチン・ドハティ氏を招聘し、表象発達についての研究交流を行った。しかし、依然として新型コロナのパンデミックが収まらなかったことから、2021年度と同様に、実験の実施に至らなかった。そのため、進捗状況を「遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
上でも述べたが、本研究は、子どもを対象にした実験的な研究であるため、2020年からの新型コロナの影響を強く受けており、予定した実験やそれについての発表を実施できないまま、現在に至る。ようやく5月より新型コロナが「5類感染症」の位置づけになったため、実験を行える幼稚園を探し、依頼する予定であるが、まだ実験開始時期については未定である。現時点で決定している予定としては、8月に、イギリス、イーストアングリア大学のマーチン・ドハティ氏を訪ね、再度、子どもの表象発達に関する研究交流を行うこと、また、同時期に、フィンランドのトゥルクで開催されるヨーロッパ心理学会にて、映像理解に関する研究発表を行うことである。 当初、3年間で組み立てられていた研究計画であったので、本年度1年間で実験を実施し、結果を論文にまとめる段階にまで至ることは困難であると考えられるが、実験を実施することで、一歩でも次につながる成果を残したいと考えている。また、現在、映像理解に関する英語論文を執筆中であり、海外のジャーナルに投稿を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により、予定していた予備観察ができず、実験をデザインすることができなかったため、それに必要な物品の購入に至らなかった。実験を実施することもできなかったため、それにかかる経費を執行できなかった。また、これまで参加した国内外の学会がオンライン開催であったため、旅費を執行することができなかった。 今年度は、予備観察、本実験を実施するための経費、イギリスのイーストアングリア大学のマーチン・ドハティ氏を訪問し、研究交流を行うための旅費、および、ヨーロッパ心理学会での研究発表のためにフィンランドへ渡航する費用を執行する予定である。
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