研究課題/領域番号 |
19K03252
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
佐々木 惠美 筑波技術大学, 保健科学部, 客員研究員 (70251056)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 視覚障害 / 聴覚障害 / 大学生 / メンタルヘルス / 自殺 / 自殺予防 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
申請者が筑波技術大学保健管理センター精神科で対応した9年間の統計をもとに、視覚障害学生のメンタルヘルスについて後方視的に調査した。調査項目は、相談までの経緯、心理的背景、精神科的診断、希死念慮や自殺企図の有無、支援方法、転帰等である。 昨年度は自殺予防の観点から、調査項目の中の希死念慮や自殺企図に着目し、期間中の全学における自殺関連行動について重点的に調査を行った。自殺未遂学生の特徴、自殺企図手段および回数、動機、精神医学的診断、調査期間中に行った自殺予防活動等について調査・検討を行った。 調査期間中に既遂は認めなかった。自殺未遂例に男女差はなく、学年は2年生に多く、月別では7月に多かった。自殺未遂前の本学精神科の受診歴は6割を超え、診断内訳は統合失調症、発達障害圏(未診断例)が多く、次いで気分障害、適応障害等であった。未遂例、希死念慮を持つ例のいずれも、聴覚障害学生より視覚障害学生で多かった。一般的に視覚障害者は光による気分の調整が得られにくく、うつ状態や不眠をきたしやすいことが知られているが、視覚障害と自殺リスクとの関係については未だ明らかにはなっていない。 一方、海外の報告に比べて本学の視覚障害学生の自殺関連行動は少なかった。本学では学生全員が障害を持っているため、ピアサポートの場になっていることが自殺行動の抑止力として働いていることも考えられる。また、期間中に大学で行った高層階の施錠等の物理的対策、メンタルヘルスの講義、教職員への啓発パンフレット、健康診断時のスクリーニングによる早期発見・早期介入も、自殺予防対策として有効であった可能性もある。 今回の調査では、視覚障害や聴覚障害があるがゆえに発達障害が見過ごされていたケースも散見された。周囲が障害への先入観を持たず精神障害や発達障害を正しく診断し、必要な支援に結びつけることも重要と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の学生健康診断が新型コロナウイルス感染症のために予定通り行われておらず、具体的な日程は未定である。 また、毎年健康診断前に行っていた新入生へのメンタルヘルス講義も、未だ施行できていない。 プライバシーを守りながら、感染対策を行った上で、個別面接を行う手法や場所について、現在学内で検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
健康診断におけるこころの状態スクリーニングにより、昨年度までは支援が必要な学生を早期発見、早期介入することができた。自殺予防の観点からも一定の効果があったと思われる。 今後は新型コロナウイルス感染症対策を考慮しながら事業が継続できるよう、オンラインによる自殺予防教育、Webを用いた新たなスクリーニング面接の導入、通信機器を用いた個別面接の導入等を検討中である。 視覚障害学生は、特に感染予防対策には留意する必要があり、面接時に盲聾者が利用するブレイルメモや点字機器の消毒、対面で面接を行う場合の場所や感染防止のための指針等を検討しながら、研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主たる勤務先の異動と新型コロナウイルス感染症のため、予定通りの研究が進行できなかった。具体的には、例年4-5月に行っている定期健康診断の延期、付随して行ってきた「こころの状態スクリーニング」と視覚障害学生へのメンタルヘルス講義の延期である。 今年度の定期健康診断は11月か12月に予定されており、感染防止とプライバシーへの配慮のため遠隔機器(iPad)等を用いて、遠隔で面接を実施することを検討している。また、昨年度まで実施し得たスクリーニング結果や統計を用いて、研究成果報告を行う。メンタルヘルスの授業は7月に遠隔で行う予定である。次年度使用額は、2019年度に準備予定であったこれらの事業に使用する。
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