仮想現実(virtual reality:VR)を用いて授業の見方を効果的に学ぶことが可能なコンテンツの作成を目的とした。本年度はこれまでに得られたデータの追加分析を実施し,成果を論文にまとめた。具体的な内容と成果を以下に示す。本研究では教員養成大学に通う大学生に小学校の国語の授業動画を視聴してもらった。動画は教室の中央から360度撮影可能なカメラで撮影されており、タブレットを操作することで自由に視点を動かすことが可能であった。各参加者の視聴過程について1秒ごとに視線の方向を特定して分析した。視点の移動回数が少なかった参加者の特徴としては、教室の前方からほとんど視点が動かず、視点が移動する場合は教師の指名を受けて発言している児童に目を向けていた。このような授業の見方は「教師を中心とした授業観」を反映したものと推測される。視点の移動回数が多かった学生は授業を見る際に絶えず教室の様々な子どもに目を向けていることがわかった。教師が発言している際も教室の後方にいる子どもに目を向けるなどして、様々な子どもの様子から積極的に情報を得ようとしていた。そのような見方をすることで不意の子どものつぶやきなどにも注目することができており、「黒い男の子のつぶやきをひろう→めあてにつなげる。納得している子もいる。」といったように子どもの反応に基づいて教師の関わりを理解していた。これは「子どもを中心とした授業観」を反映した授業の見方と考えられるが,このような常に授業の見方を示した学生はごくわずかであった。これらの結果から,必要に応じて教室の多様な情報に目を向けることを促すメッセージを示し,視聴中に立ち止まりながら視点を自分で切り替えることで多様な情報を統合しながら授業の営みを解釈する態度を促し,その結果として学習者の授業観の振り返りにつながる教材を作成することの重要性が示唆された。
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