研究課題/領域番号 |
19K03261
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研究機関 | 宮城学院女子大学 |
研究代表者 |
足立 智昭 宮城学院女子大学, 教育学部, 教授 (30184188)
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研究分担者 |
平野 幹雄 東北学院大学, 教養学部, 教授 (20364432)
柴田 理瑛 東北福祉大学, 総合福祉学部, 助教 (20589775)
大橋 良枝 聖学院大学, 心理福祉学部, 教授 (50787702)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 幼児 / 児童 / 攻撃性 / 保育士 / 学童保育 / アタッチメント |
研究実績の概要 |
本研究は、東日本大震災の被災地において野火のように広がる子どもの攻撃性に対応するために、研究代表者らが行っている発達臨床心理学的アプローチと、研究分担者が行っている精神分析学的アプローチを統合する原理モデルに基づき、介入プログラムを構築することを目的とする。 初年度の研究のねらいは、攻撃性の高い子どもとその対応に困難性を感じた保育士・指導員の事例をデータ化し、それらの事例と大橋(2017)のEMADISモデルに基づき、介入のための仮説的モデルを作成することにあった。EMADISは、愛着形成に問題を有する軽度知的障害児は、虐待してきた親を、選ばれた教師に投影し、その選ばれた教師は、虐待した親と同じように振り舞わされてしまうと仮定する。あるいは、虐待されて傷ついた自分を選ばれた教師に投影することで、教師を無力な気持ちにさせたり、いつもおびえた気持ちにさせたりして、それを脅す、虐待する親の役割を愛着障害児が取ろうとすると仮定するのである。 研究代表者と分担者は、保育所・学童保育の現場で、攻撃性が高い幼児・児童の8事例をデータ化した。その結果、その殆どの事例が、DSM-Vの脱抑制型対人交流障害の診断基準の一部に当てはまった。また、これらの事例の中に、保育士が精神疾患を発症し、休職に至ったケースがあった。このケースでは、クラスの中で、特定の保育士に対して幼児の執拗な攻撃があったことに、周囲の保育士が気づかず組織としての対応が遅れていた。また、このケースでは、保育士の生育歴に特記すべき事項があり、そのことが状態悪化の要因となっていたことが推察された。 以上のことから、攻撃性の高い幼児・児童への介入モデルにおいては、幼児・児童とその家族のアセスメントだけでなく、保育士・指導員の組織や、攻撃の対象となった保育士・指導員のアセスメントも必須の要因として加える必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、3つのステップから構成される。それぞれのステップで何をどのように明らかにするかは以下の通りである。 研究① 「原理モデルの構築」複数事例研究(1年目):1)研究代表者と研究分担者は、各々の現場において研究許可の得られた事例をデータ化する。事例は、攻撃性の高い子どもとその対応に困難性を感じた保育士・指導員の事例である。それらの事例とEMADISに基づき、仮説的モデルを作成する。2)仮説的モデルによって,問題の発生状況から問題の解消までのプロセスが描けるかどうか、すべての事例に対し検討し、モデルの修正加筆を行う。3)2)において構成された仮説的モデルの内容的・構成概念的妥当性を、研究代表者と研究分担者が専門とする発達臨床心理学理論、精神分析理論に基づき検討する。 研究② 原理モデルによる介入プログラムの開発及び効果検証(2年目):①によって得られた原理モデルに基づき、子ども、家庭、保育士・指導員に対する介入プログラムを開発、実施し、その効果を検証(子どもについては攻撃性の変化、保育士・指導員についてはうつやストレスの状態の変化を査定)する。 研究③ 原理モデルによる介入プログラムの開発及び効果検証(3年目):②によって検証された介入プログラムを、宮城県内の小中学校などでも実施し、介入プログラムの応用性を検証する。前項に記したように、初年度の研究の目的はほぼ達成されている。しかし、2020年2月以降、新型コロナウイルス感染症拡大により、研究代表者、研究分担者が一堂に会して、仮説モデルの検証を行うことは困難であった。また、このモデルについてラウンドテーブルを実施予定であった発達心理学会も中止となり、多くの研究者の批評を得ることはできなかった。これらの点については、次年度、オンラインのツールを用いて研究を深めたい。
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今後の研究の推進方策 |
前項で記したように、2年目の研究は、初年度に作成した仮説的モデルに基づき、子ども、家庭、保育士・指導員に対する介入プログラムを開発、実施し、その効果を検証する。そのためには、子どもについては発達の諸領域、愛着形成の課題についてのアセスメント、家庭については育児の適切さや保護者が抱える課題についてのアセスメント、保育士・指導員についてはメンタルヘルスについてのアセスメントを介入の前後で実施する必要がある。また、介入にあたっては、施設の組織に対する介入も必要となることから、子どもの攻撃の対象となっている保育士・指導員が組織の中で孤立していないか、サポートする体制が取られているか等のコンサルテーションを実施する予定である。 また、介入のためのプログラムは、アクションリサーチ法に基づき、研究代表者、分担者間で随時見直しを行い、より実効性の高いプログラムへとブラッシュアップする予定である。 また、3年目においては、保育所、学童保育の現場だけでなく、小学校などでもこのプログラムを適用する予定である。東日本大震災の被災地である宮城県では、小学校における暴力行為が、2011年年度は約100件であったのに対して、2018年度は約12,000件となっており、その数は10倍以上となっている。また、仙台市では、小学校における教師に対する暴力が、2018年度は2017年度の倍になったと報告されている。このように小学校における子どもの荒れは顕著であることから、2年目となる2020年度後半には、小学校におけるコンサルテーションを実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大により、2月から3月の学会出張等が中止となり、そのために大きな残額が生じた。これらの残額については、次年度の旅費として使用する予定であるが、このコロナウィルス感染症の終息が遅れる場合には、年度途中に費目替えを行い、物品費や謝金等として使用する予定である。
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