2021年度もコロナ禍の影響により十分なフィールドワークは叶わなかったが、日本における音楽科授業研究の動向を調査し、その理念や研究方法の開発過程を明らかにした上で、communicative musicality理論の援用可能性を検討し、音楽科授業における相互行為に関する理論構築を試みた。 具体的には、音楽づくり・創作の授業におけるグループ活動に焦点化し、教師及び子どもの発話プロコトルの作成、動画分析を経て、微視的視点で子どもの創作プロセスを追った。その際、「発話」「音の発信」「表情・身振り」「視線の動き」の4点をマルチモーダルな相互行為の観点と設定し,動画解析ソフトELANを用いて一人ずつ網羅的かつ詳細に記述し可視化することを試みた。 その結果、子どもたちは、個々に音の鳴らし方を探索するなかで楽器としての可能性を見出し、自分と音との対話から奏法やリズムに関するアイディアを即興的に創出させていた。そして、予定調和で完成に辿り着くのではなく、互いに意図を擦り合わせたり、試奏とフィードバックを繰り返し、時には棄却されたり修正されたりしながら、アイディアに対して双方が意味や価値を見出すことによって作品の一部として位置付いていった。アイディアの共有過程においては、言語での承認はもちろん、他者のリズムの模倣や応答といった音でのコミュニケーションによって合意形成が図られる場面もあった。 これらの分析から、協同的な創作活動では、音との対話によって創出された個々のアイディアは、音・言語を通して他者と相互交渉をしたり、教師の提示した条件や枠組み、学習経験や生活経験を参照しながら、共有可能なアイディアへと昇華していくプロセスが描出された。
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