研究実績の概要 |
本研究の目的は, 擬人化により科学的説明文の理解がどのような影響を受けるかを, 認知の二重過程理論の枠組みから明らかにすることである。擬人化を用いた説明は科学のテキストなどにもしばしば用いられているが,それが科学的説明文の理解にどのような影響を与えるかは議論が分かれている。本研究課題では,擬人化により直観的なヒューリスティックに基づく説明文理解が促進されるのか,あるいは,熟慮的で分析的な説明文理解が促進されるのかを検討する。 2020年度は, Kelemen et al. (2009; 2013)によるteleological belief (目的論的信念) と科学的知識を尋ねる質問項目の日本語版を実施した。目的論的信念とは,自然現象が意図や目的をもって存在するという非科学的な信念であり,科学者であってもタイムプレッシャー下ではこうした信念を受容しやすいことが先行研究で示されている (Kelemen et al., 2013)。調査では,日本人参加者における,目的論的信念と擬人化傾向, 情報処理スタイルとの関係や,タイムプレッシャー下で目的論的信念の受容が増加するかを検討した。その結果, 先行研究と同様(Kelemen et al., 2009), 日本人参加者でもタイムプレッシャー下で目的論的信念の受容が増えることや, 直観性や擬人化傾向が高いほど科学的に誤った説明を受容しやすいことが明らかになった。これらの結果の一部は日本認知心理学会で報告を行った。 今後は擬人化を促進するような課題条件を設け,擬人化によって直観的・熟慮的な科学的説明文の理解過程がどのような影響を受けるかを検討していく予定である。
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