本研究の目的は、認知の二重過程理論の枠組みをもとに、擬人化が科学的説明文の理解にどのような影響を与えるかを明らかにすることである。擬人化は学習や認知的努力を動機付け、深い理解を促進するという知見がある一方で、直感的な処理過程を喚起する可能性も指摘されている。本研究では、自然現象が意図や目的をもって存在するという非科学的な目的論的説明文を用いて、擬人化と科学的説明文理解の関係を検討する。 2019年度から2021年度にかけて、擬人化傾向の個人差を測定するための尺度の日本語版を作成し、擬人化傾向、直感性・熟慮性と科学的説明文の理解の関連を調べ、擬人化傾向が高いほど非科学的な自然現象に対する目的論を受け入れやすいことを示した。また、タイムプレッシャー下で目的論的信念の受容が増え、擬人化傾向が高い参加者でタイムプレッシャーの影響が強いことから、擬人化傾向が高いほど直感的に科学的に誤った説明を受容しやすいことを明らかにした。2022年度は日本語版の思考スタイル尺度を作成し、直感的な思考スタイルと目的論の受容が関係することを明らかにした。また、擬人化されたイラストと科学的説明文の理解の関係を調査し、擬人化されたイラストの使用は目的論的信念の受容に影響を与えない可能性を示した。 これらの研究から、非科学的な目的論による説明の受容には、擬人化されたイラストなどにより人らしい特性を強調することによる影響は少なく、個人の擬人化傾向や直感的な思考傾向の影響が強いと考えられる。擬人化の使用を適切にコントロールし、熟慮的な思考を促す質問や課題を提示することで、非科学的な目的論を受け入れにくくなることが期待されるなど、本研究の知見を科学教育の場面に応用することが可能だといえる。
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