研究課題/領域番号 |
19K03292
|
研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
和氣 大成 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (80815845)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | アルツハイマー病 / 発症前診断 / 告知 / アミロイドPET / 生命倫理 / 医療倫理 / バイオエシックス / 意思決定支援 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病の治療薬の開発を目指して、バイオマーカーを用いた臨床試験が世界中で活発に進められており、リクルートされた多くの健常高齢者および軽度認知障害(Mild cognitive impairment: MCI)患者が、自身のアミロイドβやタウの蓄積状態を知ることとなっている。しかし、アルツハイマー病の発症リスクを予測するアミロイドおよびタウPETの結果を告知することには、極めて重要な倫理的問題がある。すなわち、(1)未だ根本治療薬が存在しないアルツハイマー病を発症するリスクの高さを、(2)発症時期を正確に予測できないなど不確さが残る最新技術を用いて、(3)被験者にわかりやすく丁寧に説明するための効果的なコミュニケーション法が開発されていないままに告知することは、医療倫理の四原則である「害を与えない原則」に反する可能性がある。害を与えないことを実証的に確かめ、もう一つの重要な原則である「真実を知り自己決定する」権利と尊厳を守ることが切実に求められている。本年度も被験者のリクルートを中心に進めた。被験者に対して、アルツハイマー病の発症リスク自覚アンケートや認知機能に関する病識アンケートなどを実施するとともに、ベースライン時に状態-特定不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory:STAI)、ベック抑うつ尺度(Beck Depression Inventory-II:BDI-II)を施行した。またPETの結果告知後に、STAI、BDI-IIの他にトラウマ尺度(Impact of Event Scale-Revised:IES-R)を加えて追跡するとともに、電話インタビューによる半構造化面接を実施することで告知の影響を質的に調べた。また倫理面の検討については、オックスフォード大学哲学科のJulian Savulescu教授らと議論を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、アミロイドおよびタウPETを実施した健常高齢者およびMCI患者を被験者候補としてリクルートを行なっているが、アミロイドおよびタウPETの実施にあたり本研究の選択基準を満たさない被験者が対象となることがやや増加したことに伴い、可能な組み入れ候補者が減少している。これに加え、新型コロナウィルス感染拡大を受けてアミロイドおよびタウPETそのものも実施することができないこともあった。このため進捗状況はやや遅れてているものの、その間も、すでに組み入れられた被験者については、PET結果の告知後にプロトコルに沿った形で追跡が進められ、告知の影響を測定する質問紙および電話インタビューが施行されるなど、堅調に進められている。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きアミロイドおよびタウPETを実施した健常高齢者およびMCI患者の組み入れを進める。組み入れられた被験者に関しては、計画に従って告知前(ベースライン時)の精神症状等の評価と告知後の追跡を施行する。収集された量的および質的データを用いて、告知が明らかな心理的な害を及ぼさないことを確かめるとともに、告知の受け止めの違いに影響を与える要因について分析する。その結果は、最も適当と判断される国内外の学会において発表を行う。またオックスフォード大学哲学科のJulian Savulescu教授らとの議論を深め、倫理面の検討を発展させる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究実施のためのコーディネーター、研究調整事務、データ入力のための人件費を計上していたが、新型コロナウィルス感染拡大予防策の一環として外部者の立入が制限され、適切な人材の採用に至らなかったため「人件費・謝金」の支出が生じなかった。同様に、海外出張が見送られたため「旅費」の支出が生じなかった。組み入れられた被験者に対する電話インタビュー数も予定していたよりも減少するなどしたため、「その他」の支払いが計上額に満たなかった。これらによって発生した次年度使用額に関しては、予定していた打ち合わせおよび電話インタビューの実施にあてるとともに、新型コロナウィルス感染予防策のために新たに必要となったオンライン環境の整備のために用いることを計画している。
|