研究課題/領域番号 |
19K03292
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
和氣 大成 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (80815845)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 医学的対処可能性 / アルツハイマー病 / バイオマーカー / 知る権利 / 発症前診断 / アミロイドPET / 医療倫理 / 意思決定支援 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβの蓄積を防ぐ薬剤(一般名アデュカヌマブ)が世界で初めて米国食品医薬品局(FDA)で迅速承認されたものの、その承認を至る科学的なプロセスに関する疑義が広がった。日本でも厚生労働省は承認見送り(継続審議)と決断した。ところがその後、同じくアミロイドβを標的とした別の薬剤(一般名レカネマブ)は、認知機能の低下を抑制した十分なエビデンスを示すことに成功したとしてFDAに迅速承認され、科学コミュニティから驚きとともに受け止められた。日本でも承認が目指されているが、対象となる患者が限られているためすべてのアルツハイマー病患者が使えるわけでなく、脳出血などの副作用のリスクも懸念されており、保険適用になった際でも財政をひっ迫させる恐れがある。さらに、レカネマブを用いたグループの認知機能の低下の抑制の割合は、プラセボを投与されたグループのそれに比べ27%少なかったと発表されたが、このベネフィットが上記のリスクと比較して妥当性があるのか、リスク・ベネフィット評価の観点からの議論も起こっている。以上の状況を踏まえ、まずは新たな根本治療薬であるレカネマブが、本研究が対象とする医学的対処可能性となりうるかの判断について、論文、学会発表などの資料を収集した。さらに、神経科学や精神医学、応用倫理学など複数の関連分野における専門家から、オンラインや対面を含めて広く意見を集めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の前提は、アルツハイマー病が医学的対処可能性がない、すなわち、予防法や根本的治療法がないという科学コミュニティのコンセンサスが確立しているというものであった。しかしレカネマブが認知機能の低下を抑制する十分な科学的根拠を示すことに成功したとして、専門家集団のコンセンサスに変化が生じた。このため、まずはレカネマブの登場がアルツハイマー病に対する医学的対処可能性となるかについての調査する必要が生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き新たなアルツハイマー病の根本治療薬の開発状況を間を置かずに広く収集する。同時に、新薬の登場を受けて日本の医療現場がアルツハイマー病の発症前診断をどのように進めようとしているかについても、専門家から十分な情報と見解を収集していく方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度に発生した次年度使用額に関しては、予定通り、本研究の応用倫理学的な検討をさらに強化するため、欧州における倫理関連学会への参加も含めた研究者との議論・意見交換に充当した。しかし、アルツハイマー病の根本治療薬としてレカネマブが米国FDAで迅速承認されたことを受け、本研究の前提に変化が生じるか調査が必要となり、研究の遂行がやや遅れたため、次年度使用額が生じた。この調査を終え次第、当初の予定通り研究を進め予算を執行する計画である。
|