研究課題/領域番号 |
19K03293
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西口 雄基 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (50781910)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抑うつ / 自己概念 / 身体 / 認知 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、抑うつ的な個人における自己イメージを計測する潜在連合テスト(implicit association test: IAT)を開発し、IATで計測されたネガティブな自己イメージとネガティブな刺激に対する注意バイアスの相関について検証を行った。結果としては、IATの開発には成功したが、ネガティブな自己イメージと注意バイアスの間には相関が見られなかった。今後の研究ではこうした内容を踏まえ、IAT以外の方法で自己イメージを計測することや、注意以外の認知バイアスには自己イメージの影響がないか探っていく必要があるため、2020年度の研究ではこれをひとつの目標とする。 また、本年度は香港大学のTom Barry氏やルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの高野慶輔氏らとともに、抑うつ的認知バイアスに関する国際的なミーティングを開くことができた。本研究の内容をここで発表し、国内外の認知バイアス研究者と共有することに成功した。このミーティングでは、本研究を発展させるための具体的なアイディアを他の研究者から得ることができた。 また、データ解析法としてベイズモデリングを用いることを目指していたが、ベイズモデリングを用いた研究論文を一本公表することができた。これは過去に行った研究の再分析であるが、自己イメージの解析にも寄与する成果であると言える。本年度このような成果を出すことができたため、今後の研究でもベイズモデリングを用いた解析を積極的に行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究では、ベイズモデリングによる解析を用いた主著の査読論文を1件、国際誌で発表することができた。また、共著論文も3件投稿することができている。本年度はもともと、IATの開発などを主に行う予定だったが、想定していた以上に積極的に研究成果を発信することができたと言えるだろう。また、計画していた国際ミーティングも無事に行うことができた。このような成果があったため、当初の想定以上の進展があったと言ってよいだろう。ただし、想定していた結果が得られなかった部分もあった。IATを開発することはできたが、ネガティブな自己イメージと抑うつ的注意バイアスとの相関が見られなかったため、自己イメージの歪みが認知バイアスを生じさせるという仮説は支持されなかった。この結果は、今後別の測定法を用いて再度検証してみる必要性があるため、本年度は論文化はされなかった。このように、計画していたよりも検証が難航している部分もあるものの、本年度は共同研究を含め様々な認知バイアスの研究を進めることができたため、全体としては想定以上の成果を出すことができたと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、大きく分けて2つの研究を進めていくことを考えている。一つは、自己イメージをIAT等の方法で計測し、認知バイアスとの相関を計測する研究である。2019年度の研究では、IATと、Dot-probe課題を用いた注意バイアスの計測を併せて実施した。しかし、国際ミーティングにおいても自己イメージの計測法としてIAT以外の方法や、Dot-probe課題以外の注意測定法についても情報を得ることができたため、今後は2019年度に見つけられた問題点を改善しながらこの研究を発展させていくことができるだろう。 さらに、2019年度の研究を通し、計算論モデリングを用いた解析で認知バイアスの研究をより発展させることができる可能性が見いだされた。ネガティブな自己イメージを持つ個人とそうでない個人の間での認知課題のパフォーマンスの差を、計算論モデルを用いて検証することで、どのような原因で認知バイアスが生じているのか推測することができるかもしれない。 そこで、本年度以降は従来想定していた自己イメージの測定法の研究と、計算論モデリングを用いた研究を並行して行っていくことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験用ノートPCを購入して実験を行う予定だったが、年度後半に新型コロナウイルスに関する懸念が高まり、実験を積極的に行うことができなかった。そのため、物品費が計画より大幅に少なくなった。 次年度は、ノートPCを購入するのではなく、新型コロナウイルスに対する対策も考え、Web上で実験ができる実験ソフトの購入に費用をあてることも検討している。
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