研究課題/領域番号 |
19K03296
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研究機関 | 和光大学 |
研究代表者 |
熊上 崇 和光大学, 現代人間学部, 教授 (40712063)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 心理アセスメント / フィードバック / 研修プログラム / 情報共有 |
研究実績の概要 |
初年度として,心理検査のフィードバックに関する理論的研究および,実践研究を行った。理論的研究は,心理検査のフィードバックに関する国内外の論文を収集し,フィードバックの倫理,心理検査を受けた子どもやその保護者がフィードバックをどのように受けとめているかを整理した。その結果,フィードバックは検査者の責務であること,単なる検査結果の伝達ではなく,検査を受けた人の自己理解を促し,チーム支援のための情報共有であることが示された。 実践研究では,心理検査を受けた子どもの保護者が,どのようにフィードバックを受けとめるかのモデルを構築した(熊上崇,熊上藤子,熊谷恵子「心理検査のフィードバックを保護者はどのように受けとめているかー親の会へのインタビュー調査の分析」K-ABCアセスメント研究,21,25-34,)。発達障害の親の会会員である保護者へのインタビュー調査から,フィードバックを受けた保護者の感情は「納得・気づき」「喜び・安心」「期待」といったポジティブな感情だけでなく,「混乱」「驚き・ショック」などネガティブな感情も生起すること,また保護者のフィードバックへの不満として,「検査結果を書面でもらえないこと」「結果しか教えてくれないこと」「対処法を示して欲しい」などが挙げられた。心理検査のフィードバックに際しては,こうした保護者の持つ感情を踏まえつつ支援を行う必要性が示された。 なお,これらの研究成果をもとに,2019年11月の日本LD学会におけるシンポジウム「心理検査結果をどのようにフィードバックするかー専門家,学校教諭,親の会の立場からー」を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心理検査のフィードバックに関する研究のうち,理論研究として,倫理面と技術的な側面(フィードバックの手順,検査結果報告書の書き方,フィードバック面接の方法)に分けて,国内外の論文を収集し,整理をした。 技術的な側面については,実際に心理検査のフィードバックを子どもや保護者などのミクロレベルだけでなく,学校でのチーム支援会議でのフィードバックなどメゾレベルにおける事例も集積した。 それらを基に,現在,心理検査のフィードバックに関する市販用のテキストを編集中であり,2020年度中には出版できる見込みである。テキストは,心理検査に関する理論的研究と,実際の報告書事例,フィードバック面接事例などを多数取り入れている。 平行して,首都圏の公立高校において,研究代表者が特別支援教育心理士として,各種心理検査を行い,生徒と保護者の許可を得た上で,フィードバックの過程を記録化し,分析する作業を進めており,生徒(高校生)や保護者,教員がどのようにフィードバックを受けとめるか,子ども理解およびチーム支援を促進するフィードバックの過程を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
心理検査のフィードバックに関する市販のテキストが2020年度中に出版されるので,これを用いて,実際に公認心理師を目指す大学生および大学院生に対して,心理検査のフィードバックに関する研修プログラムを実施する予定である。 研修プログラムは90分4コマを標準として,心理検査のフィードバックに関する理論・倫理,フィードバック面接技法(子ども・保護者などミクロレベルと,学校でのチーム支援会議などのメゾレベル),報告書の書き方などをロールプレイや演習を交えたもので構成されている。 さらに,心理検査のフィードバックが全国的にどのように実施されているか,フィードバックは書面で行われているか,口頭のみであるか,個別面談の在り方や,チーム支援への活用方法について,親の会などを対象とした全国的調査を行う予定である。 これらの研究を基に,心理検査を受ける人のフィードバックに関するニーズを明らかにしつつ,効果的なフィードバックができるような研修プログラムのモデル構築を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月の国際学会が新型ウイルス関連でキャンセルされたことにより,次年度使用額が生じた。国際学会は延期されたが,今後の開催については未定である。
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