研究課題
本年度はエモーション・フォーカスト・セラピーと加速化体験力動療法の考え方を組み合わせて、クライエントの修正感情体験を促進することを目的として全15回の面接からなる心理療法介入の効果研究に着手した。臨床心理士資格を取得し、エモーション・フォーカスト・セラピーの専門訓練を受けた臨床家がセラピストを務め、未解決の感情的傷つきを抱える成人5名に対して心理療法を実施した。面接の前後には、クライエントに質問紙への回答を求め、変化の細かに追跡した。この研究はまだ進行中であり、データ収集が今後も続けられるが、過去の傷つきに接近するだけでなく、それと関わる感情的痛みを十分に体験し、それを共感的で肯定的な治療関係の中で扱うことで自己感覚に変化が起こっていることが確認された。もう一方で、セラピストの不安が高い場合、共感的関係が築けず、体験が深まらないことも追認された。本研究は、感情に焦点を当てた心理的介入に関する日本では数少ない研究として評価できる。また、エモーション・フォーカスト・セラピーと加速化体験力動療法を統合するのは、世界的にもほとんど見られない。修正感情体験はこれまで心理療法アプローチにかかわらず中心的な変容のメカニズムであると考えられてきたが、本研究ではそれを起こすために必須な要件を明らかにしつつある。まだ協力者数が少ないためさらに協力者数を増やすことが課題となる。また、面接において得られた変容が維持されているのか、フォローアップ調査を進めること、感情に対する効果的な介入を訓練する方法などにも研究の焦点を向けていくことが次の課題となる。本年度の成果は国際大会で発表予定であったが、現在のところコロナ感染の影響で大会が中止になっている。そのため、部分的に論文として投稿する準備をしている。
2: おおむね順調に進展している
心理療法の録画も含めて全記録を残す効果研究では、かなりの人的リソースが必要とされる。クライエント、そしてセラピスト、データ収集および管理者の作業が必要とされる。そのような中で100セッションを超える情報が集まっているため、おおむね順調に進んでいると言える。しかしながら、3月に入り、コロナ感染の危険があるため一時的に研究の速度を緩める必要に迫られた。
コロナ感染の危険から対面式の面接が出来ない。そのため、出来るだけ早く面接をオンラインに移行して実施することを検討する必要がある。また、データ収集が難しいため、オンラインの質問紙やインタビューによる補助的研究も追加することによって、対応したいと考えている。また、これまで収集したデータの分析もグループデザインによる分析から系統的事例研究を中心に行っていく。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 7件)
Journal of Clinical Psychology
巻: 34 ページ: 1-12
10.1002/jclp.22864
臨床心理学
巻: 111 ページ: 321-323