研究課題
本研究は、筋強直性ジストロフィータイプ1患者(以下DM1と略す)の疲労感の解明を、生体情報端末やQOL評価尺度等を利用して行い、彼らのヘルスケア行動の促進と疲労感の軽減を目的として計画された。5名の研究参加者を得て(4名は調査終了、1名は進行中)、2か月のベースライン測定期間、2か月の介入期間、2か月のフォローアップ期間から構成されているプログラムを試験的に実施した。そして、活動量、睡眠時間、体重、HbA1c(血糖値)、疲労感、昼間の眠気、QOLの測定とインタビュー調査を行った。活動量、睡眠時間、体重の情報は、DM1患者がセルフモニタリングすると同時に、研究者とも情報を共有し、介入期間ではヘルスケア行動を維持するように研究者から励まされた。研究参加者は、独自で歩行は可能だが運動制限を有しているため、介入による活動量の増加は困難であった。また体重のコントロールも軽減した1名を除き、現状維持かやや増加の傾向がみられた。疲労感はどの調査対象者も高く、健常成人の2倍近い値であった。夜間に覚醒する者が多く、昼間の眠気や疲労感に関連することが推定された。しかし、睡眠時間を十分とれたにもかかわらず、起床時から倦怠感や疲労感を訴えるDM1患者もおり、その原因の検討が必要である。HbA1cはベースライン期より、フォローアップ期に入ると低下する傾向がみられた。しかし個人差が大きく、介入期の心理的支援のあり方(連絡の頻度や生体情報端末の活用の仕方など)を検討し、次年度の研究計画につなげる必要がある。DM1患者の疲労感は、彼らのQOLを低下させる最大の要因であり、日常活動や社会参加を阻害しているものと考えられる。今回の試行的プログラムの実施により、疲労感の低下を報告した者もいたが、効果が十分得られない者もいた。したがってプログラムの再検討と疲労感を引き起こす要因の同定が求められる。
3: やや遅れている
2019年の日本神経学科において、若手医師を対象とした教育コース「医者の思いと患者の思い-より良き相互理解のために-筋強直性ジストロフィー」に招聘され、生体情報端末を利用したヘルスケア行動促進に関する話題提供を行った。定年による退職のため大阪大学から奈良大学に勤務先が変更になった。担当科目の変更や科目数の増加により、教育に関するエフォートが高まり、研究に割くことができる時間が減少したことが、やや研究推進が遅れている一因にある。また、DM1の疲労感に及ぼす要因は複雑であり、身体的要因(筋力低下や睡眠障害、呼吸機能の低下)、精神的要因(抑うつ感、自己効力感の低下など)が影響しあっているものと考えられる。したがって、疲労感に関与する先行研究の文献調査、生理的、心理的関連要因の洗い直しが必要となり、現在その作業を行っているところである。最も大きい要因としては、新型コロナウイルスのため、研究フィールドである国立病院機構刀根山医療センターへ訪問することができず、研究の推進が2020年2月から中断したままになっている。このままの状態が続くと研究計画自体の推進が困難になる恐れがある。
疲労感に関連した要因を検討するため、調査機関を1か月程度に短縮し、生体情報端末をDM1患者に装着していただき、活動量、睡眠時間、睡眠のステージなどの情報を収集することを計画している。新型コロナウイルスのため、研究協力病院への訪問調査が困難になっているので、DM1患者・家族会に協力を依頼し、郵送やメール、ZOOMなどを利用し調査を行うことも検討している。新型コロナウイルス問題が長期化するようなら、研究期間の延長も視野に入れて研究計画を再検討する可能性もある。
生体情報端末及びデータ送受信の機器を購入予定であったが、本研究課題を実施する前に行った日本医療研究開発機構の研究費による「DM1患者のヘルスケア行動のウエラブル生体情報端末によるモニタリングとフィードバックによるヘルスケア行動の改善」で使用した機材の一部が活用可能であったので、機器の購入は2020年度に延期した。また、勤務先の異動に伴い、教育に関するエフォートが増加したため、研究参加者を増やすことができなかったことも一因となっている。したがって旅費の使用額も少なくなっている。2020年度は、これまでの研究フィールドの国立病院機構だけでなく、DM1の患者・家族会との連携をはかり、研究参加者を増やす予定である。
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