研究課題/領域番号 |
19K03317
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
黄 正国 広島大学, 保健管理センター, 講師 (80735275)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 専門家アイデンティティ / 大学院 / 学生相談 / 学生支援 |
研究実績の概要 |
大学院生の専門家アイデンティティ形成過程における危機、課題、阻害要因、促進要因を明らかにするために、博士課程前期と後期の大学院生計18名を対象に、面接調査を行った。 専門家アイデンティティ形成における危機について、博士課程前期の学生は、個人のアイデンティティの発達危機と重なっている部分が多い。自分の価値観や人生観について自覚がなく、他者と協力的な関係を築けにくい場合、専門家コミュニティにとけこめない可能性が高い。博士課程後期の学生は、研究成果を出せなかったら、研究者としての自分の存在価値、使命感を実感しにくい。また経済的自立の見通しが持てない場合、専門家としてのアイデンティティの危機に直面しやすい。 専門家アイデンティティ形成における課題について、①「専門家コミュニティとの関係」、②「他者からのフィードバック」、③「研究の価値と意味への確信」、④「研究能力に対する自信」、⑤「身分と役割への同一化」、⑥「個人の目標設定」、⑦「コストと報酬への承允」のカテゴリが挙げられた。これらの課題について考えや気持ちを整理できた学生は、専門家のたまごとしての自覚をもって積極的に研究に取り組むことができる。 専門家アイデンティティ形成の阻害要因と促進要因について、①周囲の研究者との関係が重要で、他者との約束や合意形成ができることは研究活動を行う前提となる。②従事した研究活動の成果と意味が社会に受け入れられることへの予期が重要である。段階的に研究成果を発表し、ポジティブなフィードバックを得たことで、自分の存在価値を見出せることにつながる。③研究者としてのキャリアを今後の人生計画に組み入れる決意が必要である。それによって現在の活動と将来の人生との一貫性を実感されやすい。 これらの結果から、博士課程前期と後期の大学院生の専門家アイデンティティ形成のプロセスと関連要因、および支援の必要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通りに、大学院生の専門家アイデンティティ形成のプロセスと関連要因について面接調査を実施し、データ入力と解析を完了した。現時点の本研究の成果をまとめて、第53回全国学生相談研究会議でミニシンポジウム「大学院生の心理的苦悩と支援を考える」を開催した。博士課程前期から後期までに、大学院生の専門家アイデンティティ形成に対する支援の必要性と可能性について、臨床相談事例を踏まえてさらに検討した。 また、本研究の結果に基づいて、次年度予定する質問紙調査の項目を選別するための準備が整い、大学院生に調査への協力を依頼する段階に進んでいる。 以上のように、研究は予定通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目および3年目は、以下の研究を推進する予定である。 1、大学院生の専門家アイデンティティ形成に影響する関連要因(環境要因と個人内要因)を測定する尺度項目を選出し、大学院生を対象に質問紙調査を行って、信頼性と妥当性について検討する。具体的に、環境要因として、「周りの研究者との関係」、「(情報、機材、場所など)研究を遂行する環境」、「ほかの研究者とのつながり」、「同じ領域の研究者からのフィードバック」、「経済的状況」、「家族関係などのプライベートの生活」などが含まれる。個人内要因として、「研究者としての素質」、「身分と役割への自覚」、「研究活動への満足度」、「得られる報酬への承允」などが含まれる。これらの要因と専門家としての成長と自己意識との関連性を検討し、多面的に大学院生の専門家アイデンティティ形成の関連要因を評価する尺度を開発する。 2、大学院新入生を対象に支援プログラム(心理教育、情報提供、相談支援)を行い、研究環境に適応し、必要な資源を適切に利用できるようにサポートする。それとともに、個人内の要因について学生の気持ちを整理し、専門家としての自覚を促していく。また、作成した大学院生用専門家アイデンティティ形成の関連要因尺度を指標に、これらの支援活動の効果を検討する。 3、上記の成果を関連学会などで発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 2020年2月下旬からCOVID19の感染拡大が懸念され、本年度末に実施予定の2回の面接調査と予定された学会発表がキャンセルになった。そのため、データ入力に使用する予定の経費と出張旅費の予算執行が行えなかった。 (使用計画) 2020年に追加の面接調査と学会発表を行う際に、データ入力の人件費と出張旅費として使用する予定である。
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