研究1年目では、大学院生を対象に面接調査を行い、専門家アイデンティティを実感する体験を分類した。7つのカテゴリが抽出された:①集団への帰属感、②他者からの評価、③研究の価値と意味に対する確信、④研究能力への自信、⑤身分と役割の自覚、⑥明確な目標、⑦達成感。関連要因として、①周囲の研究者との関係、②研究成果への期待、③キャリア構想の明確さが挙げられた。 研究2年目では、大学院生の専門家アイデンティティの主観的体験とその関連要因(阻害要因と促進要因)を測定する尺度の項目を選択し、質問紙調査を通じて尺度の信頼性と妥当性を検討した。 研究3年目では、大学院生の専門家アイデンティティ形成の各段階(入門期、成熟期、独立期)に沿って支援プログラム(心理教育60分、交流グループ60分、個別相談支援40分×3回)を実施し、効果を検討した。介入直後と1か月後の効果が確認された。 研究4年目では、ケーススタディを通して、大学院在学中の時間軸に沿って個人の専門家アイデンティティ形成のプロセスモデルを構築した。「安定した人間関係」、「帰属感」が入学初期の専門家アイデンティティ、「使命感」、「自己効力感」が研究に専念する時期の専門家アイデンティティ、「主体性」、「満足感」が修了前の専門家アイデンティティと示された。 研究5年目では、2週間ごとに面接調査(60分×5回)を実施し、専門家アイデンティティを構築する過程でさまざまな出来事に遭遇した際の認知処理パターンを分類した。専門家アイデンティティ尺度の得点が高い大学院生は、多様な経験を統合して安定した自己像を構築し、その時に最も一貫性のある人生の物語を形成していると同時に、常に再構築のプロセスを通して変化し続けていることが示された。このことから、出来事に対するポジティブな認知処理が専門家アイデンティティの形成と関連していることが示唆された。
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