研究課題/領域番号 |
19K03354
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
吉村 晋平 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (40646767)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 感情制御 / 感情認識 / 感情障害 |
研究実績の概要 |
2021年度は以下の研究1・2を行った。 研究1.オンライン実験による感情認識と感情制御の相関関係の検討:2021年度から2022年度にかけて、2つのオンライン実験をおこなった。232名の被験者を対象にネガティブ感情を喚起するシナリオに対する感情ラベリングを行う条件と感情ラベリングを行わない条件に無作為に振り分け、その後に事前に教示した複数の感情制御方略の中から一つを実行するよう指示した。結果として、感情ラベリングを行う条件では感情ラベリングを行わない条件と比較して方略に関係なくネガティブ感情が抑制された。このことから、感情ラベリングによって感情制御の効果が促進されることが明らかになった。さらに、251名の被験者に対してEmotional Go/No-Go課題を実施して感情認識の個人差を測定した。さらに被験者内計画でネガティブ感情に対する感情制御課題を行い、認知的再評価もしくは感情受容のどちらかの方略を実施して感情認識の個人差とこれらの方略によるネガティブ感情の制御効果との相関関係を検討した。他の個人差変数を投入した重回帰分析の結果、認知的再評価によるネガティブ感情の抑制効果に対してEmotional Go/No-Go課題を通して算出されたd-primeは小から中程度の影響を与えており、感情認識の正確さが認知的再評価による感情制御効果を促進することが示された。
研究2.感情ラベリングと認知的再評価を組み合わせることによる感情制御に関わる脳活動の検討 研究1の結果から感情ラベリングによって感情制御の効果が促進される可能性が示唆されたため、30名の被験者に対して近赤外分光法を用いて感情ラベリングと認知的再評価を組み合わせた実施した時の前頭前野皮質の脳活動を測定した。脳画像データは現在分析中である。行動データからは感情ラベリングは再評価を促進する証拠は得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究を通して、感情ラベリングによって感情認識を駆動することで、ネガティブな感情制御の対象が明確になりその後の認知的再評価が促進されるという本研究課題の仮説の一部が立証された。一方で、研究2からは対照的な結果が得られており、感情認識と感情制御の連環が機能する文脈をさらに検討する必要がある。またこのプロセスに関わる脳活動のパターンについても検討を開始することができた。現在分析中であるが、過去の取得した機能的核磁気共鳴画像のデータと併せて感情認識が感情制御に与える促進的影響に関わる神経メカニズムの解明に新たな知見を加えることができるだろう。一方で、現在のところ抑うつや不安といった感情特性によって感情認識と感情制御の連環に与える影響は見られておらず、影響の有無を精査する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は以下の研究を行い、さらに発展的に研究を進める予定である。 2021年度に行った研究1・2の行動データからは感情認識が感情制御を促進するパターンと阻害するパターンの対照的な結果が得られた。この2つの研究では感情を喚起する刺激のモダリティや感情制御の方略に違いがあったため、これらの点を精査して感情認識が感情制御を促進する要因を検証可能なオンライン実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:オンライン実験が想定より安価に行うことができたこと、近赤外分光法装置を研究協力者との連携により無料で使用することができたことなどから物品費や人件費が大幅に減少させることができた。また、旅費については新型コロナ感染拡大の状況から研究発表や情報共有において対面での実施を自粛し、オンラインでの実施に切り替えたため発生しなかった。 使用計画:2021年度までに実施した研究により、感情認識と感情制御の連関は単純な線形的関係ではないことが示された。感情認識の方略や感情制御を妨害する要因についてさらに実験を行い、研究の発展を狙う。2022年度はこれらの実験に必要な諸費用のために用いる。また、これまでの成果を国際学術誌に投稿するため、英文校正や英文翻訳に係る費用にも使用する。
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