研究課題
統合失調症は陽性症状、陰性症状、認知症状を呈する精神疾患であるが、このうち認知機能障害については発症メカニズムの解明、薬物療法の開発が遅れている。本研究では、新生仔期にラットのグルタミン酸受容体を慢性遮断することで統合失調症の動物モデルを作成し、その認知機能障害に及ぼす抗精神病薬投与の効果を検討する。新生仔期薬物処置として、仔ラットに7日~20日齢までの14日間連続で毎日2回、グルタミン酸NメチルDアスパラギン酸(NMDA)受容体の拮抗薬MK-801または溶媒を投与した。成体期になってから、注意機能の試験として味覚嫌悪条件づけの潜在制止実験を行った。飲水訓練に続き、①先行提示期:スクロース溶液(先行提示群)または水(非先行提示群)を提示、②条件づけ期:スクロース溶液摂取の直後に嫌悪状態を引き起こす塩化リチウム溶液を投与、③テスト期:2瓶法でスクロース溶液と水の摂取量を測定し、スクロース選好率から嫌悪条件づけの程度の評価を行った。先行提示群と非先行提示群をさらに2群に分け、非定型抗精神病薬であるアリピプラゾールまたは溶媒を、先行提示期と条件づけ期に末梢投与した。その結果、1)新生仔期NMDA受容体慢性遮断は、潜在制止現象(先行提示群と非提示群の間のスクロース選好率の差)の出現に対し有意な影響を及ぼさなかったが、テスト期を繰り返すことによる嫌悪条件づけの消去を早めた。2)アリピプラゾールは、新生仔期NMDA受容体遮断による条件づけ消去の促進を抑制する傾向が見られた。
2: おおむね順調に進展している
新生仔期グルタミン酸NMDA受容体慢性遮断による認知機能への影響として、これまで空間的作業記憶と潜在制止現象を取り上げ、障害に対する非定型抗精神病薬の効果を検討してきた。潜在制止実験については、本モデル動物で障害を適切に検出できるような条件設定を、さらに検討する必要がある。
本年度までに、新生仔期グルタミン酸NMDA受容体遮断モデル動物における認知機能障害と非定型抗精神病薬の効果の検討として、①空間的作業記憶課題である放射状迷路学習障害に及ぼす抗精神病薬の効果、および②古典的条件づけにおける潜在制止の障害に対する抗精神病薬の効果を検討してきた。次の段階としてさらに、新生仔期NMDA受容体慢性遮断とその後の長期社会的隔離(孤立飼育)を組み合わせた疾患モデルを導入し、放射状迷路学習課題と自発的物体再認テストを用いて、このモデル動物の認知機能障害の特徴と薬物による改善の可能性を検索する予定である。
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
Translational Psychiatry
巻: 10 ページ: 426
10.1038/s41398-020-01108-6
http://www.human.tsukuba.ac.jp/faculty_j/ichitani-yukio
http://www.kansei.tsukuba.ac.jp/~ichitanilab/