研究実績の概要 |
VRヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いて視覚運動刺激による身体動揺を測定する実験を前年度までに実施してきた。本年度はデータ解析を進め、成果を学会発表および国際誌論文として発表することができた(Ashida & Fujimoto, 2022)。具体的には、前後方向への移動を模したオプティックフロー刺激の方向を周期的に反転させ、それと同期した頭部運動と重心移動を測定した。視覚による姿勢制御への影響を調べるには、体重計のように立って足裏からの圧力を計測する重心計を用いることが多いが、頭部運動はHMDによって比較的容易に記録できるため、これまで我々の研究でも頭部運動を指標として用いてきた(Fujimoto & Ashida, 2019, 2020など)。しかし、ヒトの身体は複雑な節構造を持っているため、頭部と身体全体の動きが必ずしも一致するわけではない。本研究により、少なくともオプティックフローに対する応答を見る上では、頭部運動と重心移動に顕著な差はなく、頭部運動測定に基づく議論に十分意味があることが明らかになった。 これまでの研究から、視覚による姿勢制御のためには下視野の情報が重要であることがわかってきた(Gibson, 1950; Fujimoto & Ashida, 2019など)。しかしながら、これまでの結果を見ると、必ずしも視覚運動情報処理において下視野が上視野より優れているというわけではない。特に姿勢制御に重要と思われる速さの知覚についての研究は少なく明確な結論を得難いため、あらためて上下視野の速さ知覚を比較する実験を行なった。コロナ禍のためデータが十分でないので、引き続き実験を行なっている。 これまでの研究成果をまとめた章を含む共著本が出版された(安井・マルソー, 2022, ISBN978-4-653-04632-5)。
|